死中求活

□最果ての混迷
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「……うわ。朝だ」


日差しの眩しさに目を開け、起き上がると見馴れない景色

窓の外を見れば自然いっぱいの上に太陽が輝いている


これが家族や友達なんかとの旅行中の景色なら、これ以上ないほど素晴らしい目覚めだと思う


まあ、旅行といっても異世界旅行って感じですけど!


「………」


起きたからと言って学校に行くわけでもないし
勝手に家の中をうろついていいのかも分からないし

とりあえず身だしなみを整えてベッドも整えたが……

リンクさんはどこいったんだろうかと周りを見て見るが、目に映るものは無機物のみ

今何時か分からないけど、外が若干白っぽいところを見ると早朝もいいところだ


こんな朝早い時間にも居ないとは、一体何の用事があるんだろうか

ただでさえ情報の少ない人の中で、ここは私の居た世界と違うならどこまで何の常識があるのかもすら分からない


見る限り科学力も全然違いそうだし……もしや教科書にでも載っているような過去の時代にきてしまったのか?

だなんて思うも、それなら精霊の存在も化け物の存在も変なので、やっぱり時代の問題じゃないと結論付ける


……しかしせっかく起きてしまったのに何もしないというのも手持ち無沙汰で心許ない

とはいえ昨日、今日の事で勝手に外に出ていいものか困るけど、この家のどこに居てもいいのかも困「おーーい!起きてるーー!?」

「うわっ」


起きてから永遠と色んな考えを頭に巡らせていれば、玄関の扉が開くわけでも、人の気配がしたわけでもないのに突然自分以外の声がどこからか響いてくる

びっくりして壁に頭をぶつけた

家の中からではない声に、側の窓から外を覗くと昨日唯一話したタロ君と、その隣に同じくらいの歳の子供が二人増えている


「あっ、起きてるじゃん!リンクまだ牧場だからさー遊ぼうぜー!降りてきてよ!」

「え、え、ええっと、はいっ」


何がなんだか分からないが、早く早くと言ってくるタロ君は、困る私にカウントダウンしてくる

押しに弱い私は言われたままに窓から顔を引っ込め、
外から聞こえてくる小さくなる数字になぜか慌ててしまう

扉の開け方が自分家と違ってぶつかったが、数字が小さくなるほどに早くなったギリギリで扉を開ける


「おはよー名無しさん!リンクから家に居るって聞いたんだー!」


扉を開けた先では、タロ君達が家のすぐ下まで移動してきて、タロ君は目が合った私にそう言った


増えた二人のうちの女の子は驚いた顔から笑顔に変わっている

というよりは何かを期待しているような、そんな感じだ


「そうなんですか………あ、じゃあリンクさんはタロ君の家に?」

「ううん。リンクはいつも朝と夕方はファドのとこに手伝いに行くんだ」

「……なるほど(誰だよ)」

「ねぇ、ちょっと!アタシの名前も聞いてよ!」


と、それまで私とタロ君を交互に見ていた女の子がタロ君を押しのけそう言った

その一言で強気なタイプだと察し、タロ君も「なんだよー」と言いつつも何もしないのを見るに、この力関係かと思う


「アタシ、ベスっていうの!アタシの家お店なのよ、名無しさんも後で来てよね!」

「ベスちゃん……」


積極的に自己紹介をしてきたのを見て、名前を呼んで欲しいのかと思い、そう口にするとベスちゃんは驚いたように目を丸くしながらオウム返しをする

何がそんなに嬉しかったのか、「ちゃん」と付けられたことがよっぽど良かったらしい

繰り返しながら上機嫌に笑う姿に不思議に思いながら、実家が店だということを再認識する


「お店なんだ…いいなあ…なんかオシャレですね」

「オレの家には水車がある……店に比べたら大したことはないがな……」


ベスちゃんの他に増えたもう一人の一番小さい男の子がぼそぼそと喋った

え、なにこの子

タロ君とベスちゃんのかしましさに比べ、ずっと黙っていた子が急に話したことにびっくりしていれば、タロ君が自分の弟のマロであると教えてくれる

身長が小さいのもあって、ふたりよりは年下なんだろうと思ったが、やたら話し方が年齢にそぐわないと見てみれば私より大人びた目つきをしていた


「……あ、そ、そうなんですか……でもその水車ってのも凄いですから、なんか……オシャレですよ」


寝起きの頭では、家がお店と言われた時と同じ反応しかできなくて、語尾にいくほど声が小さくなっていって信頼性がない感想になってしまう

それよりも私はマロ君の名前を聞いた時から、ずっと目が釘付けだったその眉を視界に入れていれば、何見てんだと言いたげな目で睨まれてしまった

こわ


「オイラ達ね、頼まれたんだ名無しさんの事!」

「え?見張りってこと?要注意人物?気まず…」

「何言ってんのよ。リンクまだ手伝いが終わる時間じゃないから、アタシ達が名無しさんに村を案内してあげるのよ!」

「は…なるほど……案内……」

「ほらほら行こ!」


そう上機嫌に私の両手をそれぞれ引っ張ってめちゃくちゃな移動を開始される

中々雑な扱いを受けるところを見るに、私一個人を好いている。というのではなく、村に訪れた新参者が珍しくって仕方ないと言った風だ

子供の好奇心は末恐ろしい


「うちの村のカボチャは城下町でも人気があるんだぜ!たまにルピーが中に入ってる当たりがあったりして縁起物ってヤツでさ!」

「アタシもこのあいだお手伝いしてたら入ってたのを見つけたのよ!今までのもたくさん貯金してるわ」


私のどうでもいい考えはタロ君たちの無邪気さにかき消される


正直村の中よりも帰り道を案内されたいという思いは、頭よりでかいカボチャを見たことで忘れさせられた














タロ君達に連行されるような形で向かわされたのは昨日リンクさんに教えてもらったトアル村


「あ、ねえニワトリいるから気を付けてね。ちょっとイタズラしただけでアイツすげえ怒るんだ」


主にタロ君とベスちゃんが村のことをお喋りしながら、ぐんぐんと前から引っ張ってくる

間違っても蹴っちゃったり転ばないようにと足元ばかりを気にしながら歩いていれば、狭い一本道から開けた場所に出た


景色が変わったことに気付いてパッと顔を上げれば、眼前には広い空の下、山に囲まれ穏やかな風の吹く場所で、家が点々と建つ間にはそれぞれの家庭の畑で植物が実をつけている


集落の中央を横断するように透き通った水の流れる浅い川が通っており、その終点に大きな池が溜まっている

すぐ付近には水車のある家が建っていて、あれがタロ君たちの家であることは一目で分かった


ただ田舎と一括りにするにはとても美しくて、どこに目を向けても初めて見る光景だった


昨日の森も綺麗な場所だったが、さらに人の手の通った明るく平和な村はもっと魅力的に感じた


「ねぇ!名無しさんってば昨日村から逃げ出した山羊と一緒に森の奥に行ったんでしょ?」


私が村の景色に目を奪われている間もタロ君たちは絶えず喋っていたが、振り返って私を見たベスちゃんの言葉にハッと視線を戻す

昨日私に降りかかった不幸の話題を取り上げられたが、タロ君が喋ったのだろうか


「えと、そうですね……成り行きと言うか不運と言うか……」

「そうだ!山羊が帰ってきたからイリアのとーちゃん喜んでたよな。会いに行こーよ!」


子供特有のマシンガントークにしどろもどろする

柿田君が村に帰ったのは昨日見たが…


「父ちゃん……誰のですか?」

「イリアのとーちゃん!ここの村長だよ」

「イリアはリンクと同い年でね、優しいのよ。怒ったら怖いけど…」


会話の半分以上を頭に入れられずに引っ張られる方に駆け足で連れられる


村の案内はもはや頭に無いらしい
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