軽薄短小

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気付いたらハイリア湖に来てからそれなり時間が経っていた


それもそのはず
ここに来たのはお昼前だが、上流にあるお店で小さい船をレンタルし、その船で遅いお昼になった原因のお魚を釣って
それからやたらと魚が釣れるようになって楽しくなってきちゃって気付いたらもう夕方

半日近く居たのかー、と下流のハイリア湖に降りてきて、岸辺にしゃがんで指先を水につけながらボーッと時間の流れを意識した

その頃一方リンクさんはそのハイリア湖で泳いでた

橋を歩いていたら水の底に何かあるっていって確認のために躊躇いなく服着たまま飛び込んでった

剣すら置いていかずに超迷いなく湖に入ってったリンクさんにちょっと驚いてたら魚釣ってる時に袖口濡れてたからいいかなって言われた
何を言ってるのかよく分からなかったけどとりあえず頷いておいた


「なまえ見て、夕日手に入れちゃった。」


「はい?なんですか?」


そんなリンクさんを見送って、その近くで待っていた訳だが、何やら泳ぐのも楽しくなっちゃったのか泳いでる間に迷子になったのか分からないが
反対側の岸まで行って私に手を振ってから泳いで戻ってきた
そして何か取ってきたのか嬉しそうに私に手を出す


「わあ、きれい〜ぴかぴかですね!」


「湖の下にあったんだ。今の太陽とそっくりな色してる。」


「あ〜確かに!なるほどそういうことだったんですね。」


またも何を言ってるのか分からなくて首を傾げながら両手を出すとリンクさんから差し出されたのはオレンジ色のルピーが私の手にコロンと置かれた
水に濡れたのと夕日に照らされてるのとでめちゃめちゃ輝いている
凄いきれい
これがここでの通貨だなんて、お金だってこと忘れちゃう
夕日にかざして中を覗き込む


「でも俺、それも良かったんだけど他にも良いもの見つけたんだ。」


岸に腕を組み顔を乗せて水から上がる様子の無いリンクさんがそう言って笑った

そんなにいい物があったのかなと思いながらそうなんですかと相槌する


「ここよりもっと真ん中の方の水の底でね……見に行かない?」


「え………あ、私もこのまま泳ぎに行く的な、あれです?」


未だオレンジ色のルピーを両手に乗せたまんまリンクさんの提案にちょっと目を反らす

いや、もちろん水着とか持ってないし船は返しちゃって今無いのでこのハイリア湖だいぶ大きいから湖の真ん中って言ったら、水上遊具のように湖の上に浮いてる足場があるぐらいだが、リンクさんが言った方向にはそれも見当たらない
つまり私も水に入れということかと察した

けれどもさすがにそんなつもりなかったし、このハイリア湖やけくそに深いし広い
悪いけど私は授業のプールでも中の下か、下の上と言ったところ
しかも今はしっかり服を着ている
よっぽど自信はない
それに今から全身びしゃびしゃになりたいかと言われれば……


「……いや、えーとちょっと今は……今度また船からかなんかで見に行きましょう!ここ水めっちゃきれいだから水面からでも底見えるし、ほら…なんか……夕方ですし!」


正直NOである

でもせっかく楽しそうにしてるリンクさんのお誘いを断るのはちょっと申し訳なくて色々言い訳をくっつけた

私の長ったらしい言い訳を全部聞いてからリンクさんは笑顔のまま頷いて、分かったと言ってくれた
何だか大変申し訳ない

そしてリンクさんは、「じゃあ」と言いながら私に片手を出す
突然の握手?とも一瞬思ったけど、リンクさんが手を貸して、と付け足したのを聞いてから理解した

とりあえず両手を占領していたルピーを足元に置いて代わりに差し出されたリンクさんの手を両手で掴んで立ち上がりながら引っ張る


「っ!?」


はずだったけど逆にリンクさんにその両手を引っ張られてギョッとする間もなく水の上に真っ逆さまに落ちた


「……う"っ!おぇっ!うっそでしょ……みず……水のみました!やば喉痛てぇ!あと鼻もちょっ……痛いです!」


「ははっ!じゃあ全部濡れちゃったんだしせっかくだから一緒に泳ごう、ほらおいで!」


逆さまに落っこちたせいで喉に突然水がダイレクトアタックした上に鼻にも入った
めちゃめちゃ痛い
慌てて岸に手を置いて目に入った水を擦る
急に何てことをしでかすのか驚きと不信感が今の私を作り上げこの場の加害者に訴えかける

けれどその当の本人には全くのノーダメージ
なんなら開き直って私の手を引っ張り、まだ水中の浮遊感に慣れてない私をどんどん岸から離ればなれにする


「ちょ、ちょ……深いから、深いから!あ待ってそれなら絶対離さないでくださいね!まじで!」


まったく泳げないという訳じゃないけど、ここまでぴっしり服を着た状態で、絶対足もつかないこんな深さではさすがに自信はない

リンクさんの肩に、繋いでる手のもう片手を持ってって服を握りしめる
あんまり身体にくっつくと泳ぎにくいだろうけど、私も沈みたかないのでこのぐらいはいいだろう
それでもちょっと動きにくいかなと思ったけどリンクさんは器用に泳いでく
さすがだ


「じゃあせーので息を吸って、潜るから。大丈夫?」


「あ、ああはい大丈夫です…えでも離さないでくださいね!まじ。本気で。」


ぶっちゃけ水に引きずり込まれてから全然大丈夫じゃないけど、めちゃめちゃに首を上下にする
リンクさんほど器用じゃないし自信もないからこんな湖のど真ん中で絶対ひとりの状態になりたくない
私の必死の訴えにリンクさんは笑顔で頷いてせーのと掛け声する

その声に口を開いて肩で呼吸して肺いっぱいに酸素を取り入れる


リンクさんに引っ張られるままに水中に潜ると水底へと沈んでく

小さい魚が横切っていくのを目で追った
夕日に照らされてオレンジのカラーが鱗の一枚一枚に反射してる

それを見送ってから底を見ると、下にはいつからあるのか折れた大きな木の幹が沈んでいる

緑色の植物ががたくさん生えてる中に黄色い草が入り交じってゆらゆら揺れてる

よく見ると小さい魚たちがその水草の中に隠れるように顔を出してサッと草から草へと泳いでく
その魚たちもみんな夕日の光でオレンジに染まって光り輝いてる

元の魚の持っている色が、同じオレンジに照らされてもそれぞれ色が微妙に違って、ずっと見ていられそう


「……っ」


まあこれが水の中じゃなければね。

息が続かない
苦しさで続かないと限界に繋いでた手を引っ張って、こっちを見たリンクさんに上を指差す
申し訳ないが一般人なんだ
そう息も長くないんだよ

私のジェスチャーが分かってくれたのか頷いて水面に連れてってくれる
助かった
控えめに言って死ぬかと思った


「っはあ…!…う、目が痛い……でも確かにすごいきれいでした!
頭の上からつまの先まで濡れた甲斐もありますね!
目は痛てぇけど。」


ありがとうございます
と連れてきてくれたことに感謝を伝える
あと若干の恨み
しかしびしょ濡れだな


「喜んでくれて良かった。
……でも本当はね、一番凄かったのは水底じゃない。
見せたかったのは…」


お礼を言った私にリンクさんはパシャ、と水を鳴らして濡れた前髪を邪魔そうにかき上げながら振り返る
それから私の目元にかかってきていた髪をなでるように横にどかしながら私に言う

え?と疑問に首を傾けた私に口角をあげてリンクさんが別の方へと顔を向ける、何かを見ている横顔につられて私もそっちに視線を重ねた


「…………わあ……!」


そこには眩しいほどの夕日が浮かんでた
周り一面をさっき見たときよりもっと深い、赤にも金色にも近いようなオレンジ色に染め上げて、大きく広がるハイリア湖はそんな夕焼けの平原みたくなっていた

この景色を上からも見てみたいけど、どこまでもこの湖が続いているように見えるのは、きっとここだけだと思う


「……本当にすごいですね!これは確かに…………………………。
……いや、あれ?これなら船でも見れたんじゃないですか?え?だってこれ……太陽は水の中にある訳じゃないし…………」


なんてめちゃくちゃ感動してたけど、時折揺れる波が口にまで入ってきそうで、口を閉じて波が収まるまで黙ってやり過ごす
その時にふと思った
何もこんな体力を消耗しなければ見れないものではない
だってそれこそ世の中には船があるんだから

それに気付いた私は、まだ夕日を見ていたリンクさんに疑問を口にする

リンクさんは「あ」と言わんばかりの顔をする


「まあ……そうだったかも…しれないし、そうじゃないかも……」


「いやそうだと思いますけど。
 だってちょ……午前中からさっきまで乗ってたのは一体何だとお思いで!?
すごいもの見せてくれましたしめちゃめちゃ感謝してますけど…ってあっ!?おおい!?」


事に気付いてから、今までの感動を忘れたように喋る私の繋いだ手を、リンクさんが言葉の途中でパッと離した

もう片手もリンクさんの服を掴んでいたが、他の支えを失い、服が重いのもあってとんでもない不安定さにバシャッ!と音を立てながら慌ててリンクさんにしがみつく
すると私の背に手を回して笑いながら支えてくれる


「ちょちょちょ……私リンクさんほど泳げないから!まじで勘弁してください!」


「あはは、ごめんね。今なまえは俺が居ないとダメだね。岸まで戻る?」


周りには何もない湖の真ん中で、唯一の支えはリンクさんしかない
それは確かにそうだし、全く否定するつもりもない
だからそのことにも岸に戻ることにも賛成だと何度も頷く


「じゃあそうしよう。」


すると私の返事にリンクさんは微笑んで、岸に向かって泳いでくれる

それを見てああ助かったと安心する
けれど水から上がればびしょびしょになった服のことを思う
町に行くまでもそうだが、こんな状態で町に入っては人の視線は濡れた服と同じように纏わりついてくるだろう

そのことにため息をつきそうになって息を通常より少し大きく吸う

のが分かったのか、息を吸ったそのタイミングでまたリンクさんが私の身体をパッと離す


「だぁから!!!」


さっきよりもしっかり支えててくれたことに油断して服を握る手を緩めていたのが良くなかった
またも慌てて沈みゆく重い服に逆らってしがみつく


「あっはは!ごめんごめん、ちゃんと俺に掴まってなきゃダメだよ。」


「いやまじ……超こわいんですけど。
え、そんな人でしたっけ?ちょ、ちょやだ誰か助けて!」


「残念だけど他にいないよ、しっかり掴まってようね。」


もはや恐ろしくなってきて早く岸に着いてくれと願っていたら、いじめの追い討ちかけられる
一体私が何をしたというのか



この後岸につくまで3回やられた
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