軽薄短小

□てあて
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「いたっ。」



と、急に一緒に歩くリンクさんが肘の辺りを押さえて言った


「ど、どしたんですか。」


別に何をしているという訳でもなく、歩いていただけなのに突然立ち止まって声をあげたリンクさんにちょっと驚いて聞く


「いや、何か、怪我してた。」


すると押さえた手を離して私に見えるように腕を上げた

するとなんと服ごと肘辺りの腕が真っ直ぐ切れていた


「ぎゃっ!うわっ、いったっ!やだあ!」


「何でなまえのが痛そうなの。」


「だって、うわぁ…めっちゃ痛そうじゃないですか。」


「まあ、痛いね。それなりに。」


「何で今まで気付かなかったんすか。こんなの負った瞬間からずっと痛いでしょ。」


「ほら、ここら辺て痛み感じにくいらしいじゃん。」


知らねえし

そうじゃなくても周りの服が大分血が滲むほどには切れてるから絶対分かるぐらいの痛さあるだろ

痛み感じにくいどころかそれじゃ神経通ってねえよ

何で今頃痛いんだよ

時差かよ

ブラジルの人聞こえてんのかよ


……とは思ったけど戦えない私がこういうことに関して大きくは言えないと言葉を飲んだ

とにかくこれは早めに処置した方がいいのではと立ち止まると
疲れて少し痛くなった足を二人して近くの木まで運んで荷物を漁った

「えー…と、包帯と……ああ、ありました!あとえっと、ああ薬…どこやったっけ…」


「もうコイツに荷物持たすのやめよーぜ。傷薬ひとつ満足に出せねぇ。」


「え。ちょっと待ってくださいね…。あ!ほらありましたありました。きずぐすり!」


木陰かリンクさんの影だか交じって分からないところ、とにかく影から出てきたミドナさんがまた私にいじわるを言う

しかしそれに慣れた私は気にすることなく薬を取り出した

リンクさんは傷口の場所もあって服を上だけ片方脱いだ





!?


脱いっ……



「い、いや、そりゃ、まあ、うん……仕方ない…いやてか、そんな不純な気持ちで居る私が良くないわけであって……だってそりゃ手当て、手当てするんだし……場所がね。それはね。………あー。でもこれは私の考えも、というか邪さも仕方がないのでは……。」


「おい。さっさとしろよ。何が楽しくて半裸のコイツ放置してんだよ。」


「あ、す、すいません。って、私がやっていいんですか?手当て。」


口の中にいよいよ鉄の味がしてきた頃にミドナさんに言われてパッと振り替える

すると切れた袖を見てたリンクさんが顔を上げて


「あ、頼んでいいかな。ちょっと自分でだと見にくくて。」


「まあ、その位置だとそうですよね。わ、分かりました!任せてください!」


そう鞄から出した物を両手に大きく頷き傷薬のフタに手をかける


「これでも私応急処置結構上手いんですよ!元は別にそんなでもなかったんですけどこっちに来てからというものメキメキ上達しまして、いよいよプロの道とも言っていいのではというほどで!
そこで最近この技術に多少価値をと自分でですが付け始めまして、その価値ってのは女子力の代名詞ということでしで、
ほらちょっとケガした時サッと鞄からカワイイばんそーこーを取り出し「どこ?張ったげる。」なーんていうは痛みの隣に寄り添う頼りの天使……いわゆる女子代表!今のこの現状はとても似通っていてつまりこれは私を女子……。」


「うるせえな!早くしろよ!ぐだぐだ言いやがって。」


「いやだって!人のって自分のより怖いじゃないですか!絶対これ染みますよ!絶対痛い!」


「大丈夫大丈夫。そんな考えなくていいよ。」


「ほら本人がそう言ってるぞ。早くしろよ。」


「ううっ、わ、分かってますよ!ただこの傷薬のフタ、めっちゃ硬くて開かないんですよ!」


ぐぎぎと力を入れて開けようとするが硬い。死ぬほど硬い
呆れるミドナさんをおいてリンクさんが手を出した


「………。」


なんともいたたまれない空気が流れそっと渡すと一瞬ともなく薬のフタを開けてくれた
これは私が貧弱とかそういうんじゃなくてフタが硬すぎただけであってリンクさんの力が規格外なだけであって……


「あ、ありがとうございます……。」


何が悲しくて腕ケガしてる人に傷薬のフタ開けさせてるんだ

また私の使えなさを露にしたところで結局やらなきゃいけないんだよなと傷口を見ると

やっぱりめっちゃ痛そう

もうだって見たことない傷口してるもん
特殊メイクじゃんグロいグロい


「い、痛いですよ、覚悟決めてくださいね。ほんと、絶対染みるんで。」


もう血が止まっているがそれでも痛そうという思い込みに私がびびっているとリンクさんは大丈夫だよと頷く

それを見て、うわーとも思いながら薬を染み込ませた布をゆっくり当てる


「んっ……。」


私が緊張させてしまったせいかシンとした空気に、布を当てるとリンクさんがほんの少し顔を歪めた


ほんとごめんて


「う、うわーっ、包帯巻きましょほーたい!何か巻いときゃ痛み無くなる気がしますし!」


一瞬とはいえ顔に出た痛みに過剰に反応してササッと拭くとぐるぐると包帯をほどいて巻き初める


「ていうかオマエが上手くなったってのは、オマエが勝手にケガしてる分の功績ってだけだろ。」


「いやいや、ケガしてるのはそうかもしれませんがそれでもそのケガの分だけ手当てが上手くなってんですよ。これこそ怪我の功名!」


「ただのドジだろ……。」


「なんて言い方。否定できない!」


「でも実際上手いなら何でもいいんじゃないかな。ケガばっかしてるのは、ちょっと…あれだけど……。」


「うわ気まず。それはほんと何も言えなすぎでごめんなんですけど……。」


突然のふたりからの攻撃に多少心がやられるもなんとか包帯を巻き終えて端っこを留める

いやほんと恐ろしかった


「あ、終わった?本当に上手いね。ありがとう。」


手を引っ込めて残った物をしまい始めたところでリンクさんがケガした方の腕を曲げては伸ばした

そしてその大丈夫そうな様子を見て立ち上がっては


「ふふんそうでしょうそうでしょう!私ってばやっぱり白衣の天使!もっと世間は私のこと評価してしかるべきなんですよ〜。これから何かあったらぜひこのみょうじ総合病院へお電話を」

「なまえなんか足首ケガしてるよ。」


「へ?」

つい調子に乗って髪をなびかせ陽気に口を動かしているとリンクさんが言葉を打ち切らせて不穏なことを言った

その言葉に随分間抜けな声をひとつあげて下を見るとリンクさんが私の足に指を指した


「ほらここ、血出てる。歩いてる時にでも切ったの?」


「うわっ。まじ?気付かなかったこわっ。」


片足を上げて後ろ手に足首を持つと確かに足首当たりを切っていたそんなに出てる訳じゃないが血も多少滲んでいたことが分かる


こんなケガに気付かなかった自分がこわい


そして意識し出したとたんその辺りが痛くなってくる

やばい私も神経通ってなかったじゃん時差かよなんだよ痛ったいわあ


「そうだ。今やってもらったんだし、俺が手当するから。そこ座って。」


そういって服を着直したリンクさんが薬の瓶のフタをまた開けて準備万端だともいいたい顔をした


「え、いや、いいですよ。自分で、自分できます。」


「何だよ。やってもらえばいいじゃないか。それとも何だ、今まで自分の治療に薬は使わなかったから不安なんだとか言わないだろ。」


隣で見てたミドナさんが私の顔の横から覗き込むように私の焦る表情を見て笑う


「は!?違いますよ。そんな染みるから嫌だとかまさかそんな子供みたいな。そもそもそんなケガしたからってすぐにきれいなね、布で塞いどけばそうそうバイ菌が入って腐るとかそんなこと起きる訳でもないことですし。
まあ何ていうか?私もこっちに来てから文明の利器に頼らずに自分の足のみで立っていくという大切さに気付きまずは薬ばかりに気を使わずに自身の治癒力に掛けてみてもいいんじゃないかと」


「染みるのが嫌だから傷薬使ったこと無かったのかよ?」


「そりゃもう!…………………………ちょっと待って違う。違います。」


「……え?何?なまえ今まで包帯だけで過ごしてたの?」


「え、あの、違います。あの、ほら、違いますって。」


ついミドナさんの言葉に乗せられて勢いよく頷き理解の遅い私は一瞬で変わった空気にじわじわ理解した


コマンド間違えました


私に聞いてきたリンクさんの言葉にも目を合わせられずにスーっと横にスライドして否定すると視界の端でリンクさんが私の足に手を伸ばした


「っ!痛っった!!!ちょ、掴っ…!」


手を伸ばしたのを見てびっくりして引っ込める反射にリンクさんが思い切り傷口を気にせずに鷲掴みした



突然の鬼畜


「当たり前だよ!血も出てるんだから!ケガしたんならちゃんと治療しないと駄目だろ!」


電流でも流されたように痛みが走った

いや電流なんて流されたことないけど


すると多少バランスを崩した私の体をポスリと支えてくれたミドナさんが肩に手を置いて口を開く


「そ〜だよなぁ〜。まさかオマエが持っててオマエしか使ってこなかった傷薬のフタが開けられないなんてな〜。そ〜んなこわいことあってたまるかってんだよな〜。いっちばん初めて開ける訳じゃなければオマエが開けられて当たり前だよなぁ。」


「み、ミドナさ」


「ミドナそのまま。手当てするから。」


言われたミドナさんは私の背中に広げてた頭の髪を肩全体をがっしりホールドするように形を変えるとリンクさんが薬を染み込ませた布を足に伸ばした


「ちょ…っとまって!せめて!せめて自分でやりますから!あの自分で………あ゛っっっ!!!痛ってぇ!染みっっ……!!!」





















傷は完治しました
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