軽薄短小

□きになるきになるすきになる
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2月








バレンタイン







































皆死ねばいいんだ










突然の品の無さに謝ります

しかしそんな事を言いたくなるほど追い詰められてるんだ

しかたない






今現在私たちのクラスではバレンタインが近いということで女子達とはその話題が多く出る



基本は友チョコの事


彼氏が居る子はのろけ


好きな人が居れば相談





そして私は






さんばんめ



言い訳が効くなら、好きな人では無く『気になる人』という分類として置いてほしい


いや私としても簡単に好きな人としたいが…

何せ彼とは話した事がない



厳密に言えば気になる人となるにきっかけがあった訳だけど、それも大した事が無い

でもとりあえずは前提を話そう



彼――リンク君は何と言っても顔が良い


サラサラ輝く金髪はまるで夏の太陽

しかしその表情は秋のしおらしさを映し出し

青い瞳は冬の寒さの鋭さを感じさせる

えーーーーっ…と春はいいか



そんな褒め所しかないリンク君だけど、どうにも取っ付きにくい所がある


イケメン過ぎて関わりにくいというのもあるが、あんなにもこんなにも顔が良い彼はその良さ故か真顔がギリッとしていて、いつも何か不機嫌そうに見える


何て言うか

イケメンなのにぶさいくな表情みたいな

でもイケメンな事には変わらない


でもやっぱり表情が硬い彼に、軽く簡単に話しかけられる自信が無かった私は、仲良くなる期間をすぐ失ってしまった


だからそれまでは別に恋焦がす事も無く

私の中ではただクラスで騒がれるイケメンな人

というほどに落ち着いていた



しかしここでようやく、そんな中でも私がリンク君を『気になる人』というほどになった本筋を話すと



あれは夏の事だった


夏の暑い時期は何にでもイライラするもの

例えば目を細くせざるを得なくなる太陽

例えば匂いを気にしなくてはならなくなる汗

そして私の血を吸う虫


学校の帰りに敷地内の端っこにある駐輪場まで行くと、木や簡易に作られた屋根のおかげでできた日陰がある

草もたくさんあるせいか虫がよく出る場所だった


捲った袖口に大嫌いな蚊が止まっていた

ただ払えば良かったのに夏のイライラについ手で叩いてしまった


グロテスクになってるであろう手の下を見たくなくて、そのまま近くにある水道まで行ってバッグを適当に捨てるように置いて洗った


ビショビショになった腕と手を拭こうとハンカチを探す

その時気づく


しまった

バッグに入れてるんだった




なんて地面に倒れてるバッグを起こそうとした時





バサバサッ




「…………」



ファスナーを閉めるのを忘れていた


掴み所が悪く、不運にも中身をひっくり返してしまう

そんな惨状を黙って見つめた私は多大な関係の無い愚痴を含めて心の中で叫んだ


とにかく手を拭いてからだとしゃがんでバッグよポケットからハンカチを出すと、地面に転がる荷物を見ながらため息をついた



「大丈夫?」



そんな時、現れたのがリンク君だった


「え……あ、大丈夫、です…」


そういえばリンク君も自転車通学だった気がする

だから通りすがりに見かけたんだろう


いつもの顔では無く、ちょっと驚いた表情で私に歩み寄るリンク君に、少し動揺しながら答える

まあ、本来であればバッグに入っているはずの荷物たちを地面にひっくり返して、それを見ながら手を拭いてるとか…


おかしな映像だよね


「どうしたの?これ…?」


リンク君も一緒にしゃがんで、まっ逆さまになってるバッグを拾って、周りに付いた乾いた土を払ってくれた


「あ、ごめんね、大丈夫。閉め忘れてて、今さっき自分で……」


急ぎ目に手を拭いて、綺麗にしてくれたバッグを受け取る

散乱してる物を拾って土を払いながら元に入れると、リンク君もそれを手伝ってくれる


「ごめん、大丈夫だよ。帰っていいよ」


こんな私のドジに付き合わせる訳にいかないと慌てて言うと、リンク君は顔を上げた私と目を合わせる

これまでに私はリンク君とはほとんど話したことがない
今までにあったものも、ただの業務連絡的なものであって、個人的に会話をしたとかそういうものは皆無にも等しかった

そうそう目を合わせるなんてこともない私に、初めてリンク君は笑顔を見せる


「いいんだ別に。手伝わせてよ」

「…………あっ、りがとう、ございます……」


つい、初めて私に向けられる笑顔に見とれてしまったことにハッとして手に持った荷物の方に視線を落としてお礼を言う

どんどん言葉が小さくなっていったのが分かる

それのせいかリンク君がふっ、とまた笑った


「何で敬語なの?みょうじさんって変わってるね」

「そ、そう、かも……。変わって、ね……」


夏だからか顔が熱い

上手く返すこともできずに手早く荷物を鞄に入れ、ついに全部拾い入れる事ができた

あー、おもしれー女ってこういうこと?
やばいまさか自分にくる日がこようとは


そして片付いた後にふたりで立ち上がると、もう一度お礼を言った


「大した事してないよ。みょうじさんもチャリだっけ?」

「あ、うん。そう、だけど……
……忘れ物しちゃったから、私戻るね」

「そっか、じゃあばいばい。また明日」

「うん。ありがとう。じゃあね」







それだけ







本当にそれだけ








そして








それっきり






翌日からも特に何が変わるって訳でも無く、ただいつもと一緒だった


もともと気軽に挨拶するような間柄でも無かったから、本当に何も無い


何もかも変わらないのにいつもと一緒じゃなくなったことが、ひとつだけあった



リンク君の、あの笑顔を忘れられない



そりゃクラス一、おいては学年一のイケメン

元から目を惹くものはあったけど、その時からは違うもののような気がしていた


でも、やっぱり今更ちょっと話しただけですぐに馴れ馴れしくもなれず、気づけばもうこんな時期になってしまった

とっくに友達になるチャンスも過ぎたというのに、あの時のあの笑顔を思い出しては……


多分、何となくは分かってるけど、でもたかがあれだけで堂々と好きだと言えずに、『気になる人』としている



しかしこのバレンタインが近付くにつれ、周りも自分も何だかそういう雰囲気

私だけでなく友達も、ただ学校で見かけるだけのセンパイに告白しようとしてる人も居て、自分にちょっとでも似てる境遇の子を見つけては勇気が出てきた


そりゃ今までだって何かしらのイベントや行事はあったが

夏は何のイベントがあっても長期の夏休みがあるから学校でしか関わりの無い私には関係が無く、後にはクリスマスがあったけど、あれも冬休み中のイベント


でもバレンタインだけは、あの内容ともに長期休みに入っていない


おまけに今年は平日月曜日に行われる


そして先週金曜日に


「作っちゃえばいいのに〜。皆に渡す振りしてさ、軽くはいって」


元々渡したいと前のめりな気持ちになっていたせいだ


周りが無責任に
大丈夫だよ〜。なんてたくさん言葉をくれたせいだ


そして何より私の頭がゆるかったせいで


そうだよねーどうせ向こうだって大して気にせず義理チョコ的に軽い気持ちで受け取ってくれるでしょ〜


と言っちゃったせいだ


こうして


友達の甘言に乗せられてしまった結果が







冒頭の暴言である
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