軽薄短小

□それは
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「みょうじさんおはよう。」

「おはよう。」

何だか急だった

いつもはしない挨拶
いつもは合わせない目


それがきっかけだった
それがなきゃ、きっとずっと気づかなかった

みょうじさんの友達がいつもと同じように俺に挨拶した
俺もいつもと同じように返事をした

でもその時たまたまみょうじさんが一緒に登校して来てて、隣に居るのに何も言わないのもな。と特に何って事なく挨拶したんだ

みょうじさんも別段気にも留めない感じで流すように返事をした

偶然、目が合ったんだ

「…………。」

何か変な感じがした
いや別に何も変な事は無かったんだ
でもふと気付いたんだ

もうこのクラスになってから半年以上は経つ
でも、それなのに今初めてみょうじさんの目を見たんだ

まあほとんど喋った事無いしな。

とその場は納得した

けど

みょうじさんとは今凄く席が近い
だからよく目につく

みょうじさんは授業を毎回あまりまともに受けてないから、ほぼどの先生にも怒られてる
友達と話してる時にも、よくふざけてる風だった

でもおかしいんだ
なぜか俺の中ではみょうじさんは大人しい人の部類に入ってるんだ

自分でもなぜか分からなくて考えた
そうしたら案外簡単に分かった

みょうじさんは俺とは全然話さないし、多少話すかと思っても全く目を合わせないし、友達と話してる時のような冗談も言わない
だから必然的に笑いもしない

傍観としてはおかしそうなのは見てるけど、実際に相対した時には大人しいからそんな印象がついた

ああ。それだけだった
その事に気付いても「ああそうか」としか思わなかった

けどその事が分かってからみょうじさんが友達と話して笑ってる時や
俺と、別に楽しそうじゃなく話してる時
そのことが常に引っ掛かっていた

友達とふざけてる時には、あんなに楽しそうなのに
先生に怒られてる時でさえ、あんなに、むしろ自分から絡みにいってるのに
何で俺には、こんなにもつまらなそうなんだろう

後から分かったけど、それは俺だけじゃなく、男子全員にそうだったというだけの事だった

でもその時の俺には、何で俺にだけ。
としか思えて仕方が無かった

「なまえー充電器借りていー?」

「いーよー。私のケータイ何パー?」

「40!」

「やっぱ駄目」

「うそ!100!」

「駄目!おい!抜くなって!」

あんなに、俺達と同じようにふざけてるのに

楽しそうなのに











「この充電器誰のだー?盗電は犯罪なんだぞー。」



おかしいことなんて何ひとつ無かった

ただ俺と彼女が取っ付くきっかけが今まで無くて

ただ俺と彼女が仲良い訳じゃ無かっただけ

ただ俺と彼女の間に何も無かっただけなんだ




「リンクのじゃないよな。」




クラスにそんな人がひとりふたり居たって、何もおかしくない

それなのに




「没収だなー。」




そうだったのに









「俺のっ…!…です。それ……。」








きっかけが、欲しくなった




















教室のドアが開いた
同時に窓の外から入ってきた風が吹き込んでくる




「いや……どうしたの?」



「え、あ…充電器、忘れて。」









冬が始まる
冷たい風が吹いていた


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