軽薄短小

□ラッキースケ…?
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私の服のボタンが取れた

位置はシャツの左腕のものと襟口の第二ボタン


ちょっとした手違いで魔物の巣窟に侵入してしまいひどい目に遭った

その事件の最中によって取れたボタン

私はリンクさんと違ってドジをやらかしまくったせいでやたらケガをした
頭から始まり顔や手に足まで傷だらけになり、包帯ぐるぐる


「すみません本当……お手数かけます…」


近くにあった無人の小屋で手当てを終えて身なりを整え、出発しようというところでボタンのことを思い出した

別に私としてはそこまで困ることじゃないので気にはしてなかったが、せっかく道具が手元にあるということで直すことにした

ボタン程度、適当にパパッとやってもいけるものだし無類の不器用な私でもできるところだが、隙なく指までケガしてるのを理由にリンクさんがやると言ってくれた

正直この世界に来てからリンクさんにはおんぶに抱っこ

こんな細部まで手をわずらわせるのは気が引けるが、ベッドに腰掛け慣れた手つきで準備してるのを見て、何も言えずに指示された通りに隣に座って左手を出して今に至る


普通服は脱いでから付けてもらうところだろうが、私は替えの服を持っていない

リンクさんみたいに重ね着であれば良かったが、そうじゃないし

別に脱いだって人体に影響はないが、さすがに恥じらいは持っているので、少しやりにくいだろうが着たまま付けてもらっている

手元に視線を落とすリンクさんのお顔はきれいだ

私的パーソナルスペースも詰められたこの距離でまじまじ見られることもないので普通に見てしまう

リンクさんって髪も眉も金色だけど、まつ毛は黒いんだな

でもいくつか先だけ金色のも混じってる

まじに目が青い人って初めて見たかも、黒目がよく分かるなあ

というかまさしくつり目だな、表情が怖くなるわけだ。目と眉の距離も近…


「……」


そんなことを思いながらじーっと見てたら、目線を上げたリンクさんと視線がかち合った

めちゃくちゃ見ていたのがバレたと何となく恥ずかしく思ったが、どうやら直ったようだ


「あ、わあ…ありがとうございます。凄い、めっちゃきれいに付いてる」


ごまかしたくて、離された手を引っ込めて確認する

糸の種類が無かったので元のとは色が違うが、同じくらいにきっちり付いている


「村にいた時は全部自分でやってたからね。あとこっちだけだね」


付けてもらったのを見ていれば、リンクさんが襟を取って軽く引っ張ってくる

胸ぐら掴まれてるとも同義だが、仮にも直してくれている相手に怯えることもない

邪魔にならないように少し顔を逸らして、ちょっとでもやりやすいように体を寄せる

私も針で刺されたくはないのでちょっと緊張するが、リンクさんも注意しながらやってくれている


あんまり近い距離で話すのも苦手なので、逸らした視界の先の景色をぼんやりと見る

小さな窓から光が入り、きらきらホコリが浮いているのが見える

普段も当然あるものだろうが、実際目にするとなんとも不愉快

窓際に置いてある小さな観葉植物はしわしわに色褪せている


「あー…」


その様がなんとも可哀想で、この小屋が無人であることの切なさを感じさせる

この小屋は森の中にあるものだから、他に人の気配はない

家主が帰らぬ限り、ただ今後もひっそりと朽ちていくだけの空間と思えば悲しさを醸し出す

諸行無常だな


「いてっ」

「あ、大丈夫ですか?」


突然きた哀愁に思いやっていれば、服を引っ張られる力がなくなり、リンクさんが離れた

どうやら針で刺したようだ

私の言葉にリンクさんは親指を押さえながら、心配いらないと言う意味で首を横に振る


「直ったから、もう大丈夫」

「わ、本当だ。凄い。ありがとうございます」

「いや……ごめん」


道具を片付けるリンクさんに言われ、顔を落として見れば確かにもうボタンが付いている

針のケガくらいならそこまでのものじゃないし、私のせいで悪いことをしたとは思うが、無性に心配するということもない

妙な心配をかけさせたという謝罪だろうと、もう一度お礼を言う

ボタンを掛けてベッドから立ち上がり荷物を取る

リンクさんはご丁寧にあったままのところに道具を返して私を見る


「……ボタンが取れたら………俺の顔殴っていいから」

「え」


そうして言われたことに顔を顰める

リンクさんは至極真面目な顔して私を見た

本気で言っているのかと疑いたいが、さすがにそんな真顔で言われては何も言えない


どういうこと?裁縫ひとつで殴ることある?
プロ意識高……責任つよ

え、ボタンひとつくらい完璧じゃないとこの世ではカースト下に見られるのか?

確かに生活力なければ生きていける気がしないとは思うけど…

自給自足が基本の世界ってわかんねーな

重要視されてることが私の世界とはまるで違う

お金があっても生きていけるとは限らないってゼフが教えてくれたけどさ、中々染まり辛い世界だ


「…えっと………」


そこまで考えたが、もしかしたらリンクさんの技術を持ってしても取れたなら、それは私が悪いということになると視点を変えて考えてみた

つまり今の言葉には、もう取れることがないように大人しくしてろという意味が込められているということだ


殴るのは分かんないけど…自分の無事より他人のケガの方が緊張感増すからそういうことかな…
リンクさんの顔を守るという意味で大事にしろと


「取れないようにします……」


そう思ったら凄い大切にしよう感が出たな
まさかあの顔に傷はつけられない

私の深層心理をよく分かっている

そうして付けてもらったボタンを慎重に押さえて出発した
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