軽薄短小

□逃げて逃げて逃げまくれ!
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「わあ!ごめん!」


ズグッと刺さった嫌な感触が手に伝わった
持っていただけのつもりだったから、別にやってやろうとしたわけじゃなかったために慌てて離した

甘えではあるけど、いくら人型じゃなかろうが命狙われようがやっぱり嫌なもんは嫌だ


「おいおい…どんだけいるんだよコイツら!」


さっきから進む道に現れるボコブリンは倒せど、後ろを追って来ている数は一向に減っていない
それどころか逃げれば逃げるほど増えている気がする
それに私たちの行く方向を予想されてか前に待ち構える奴らもいた

挟み撃ちにされ立ち止まれば、後ろをくる奴らが迫っている

狭い道はあまり行きたくはないが下に降りられそうにない道を止まり、吊り橋よりかは丈夫そうな二段構えになってる架け橋に行く

が、上への注意を疎かにしていた


「っおい!上!」


ミドナさんがいの一番に気付き、上を見る前に影が私たちの上にかかった


「うわっ!」


その影の主を見て慌てて足を止めるリンクさんの前には、目の矢を抜いたデカボコブリンが降ってきた
床が軋むどころではない音をさせ揺れた

確かに生死は確認していなかったが、まさかまだ追える元気があったとは

後ろからは追いついたボコブリンたちが私たちを囲ってくる


「世の目を潰しておいて無事に出られると思うのか!」


その手に合わされた大剣を振りかぶる
下がれないリンクさんはそれに剣で応戦するが、さすがに体格差がありすぎた


「ッ!」


ギィンッ!と重い音を響かせて剣が弾かれ谷に落っこちる
リンクさんも態勢を崩してよろつくと、その隙を着かれて先ほど爆破された傷のある手で掴み上げられた


「リンクさん!」

「神から選ばれた勇者といえど所詮はちっぽけなニンゲンよ!地上ではハイラル城も影の力に落ちたと聞いた!もはや地上の光の者どもは我ら影の前に血を流すだけだ!」


捕まっているリンクさんと何もできない私にそう啖呵を切ると、リンクさんを掴む手に激しく力を入れる
苦しそうな声を上げているのに…必死に何かできることがないか考えても、サイズも力も何もかも違う奴に私ができることがない

もうだめかと思われたそのとき、声がした


「じゃ、オマエらは地面の下で涙でも流してろよな。」

「!?」


その声とともにデカボコブリンの前に現れたのは、落ちたと思われた剣を持ったミドナさんだった


「まあ、目が無くなっても流れるかは知らないけどな」


するとその剣を振り上げ、防御態勢を取らせる間もなくデカボコブリンの目に向かって思い切り投げ付けた


「ッギャアアアア!!!!」


両方の目を潰されたデカボコブリンは剣の刺さった目を押さえ、リンクさんを離して後ろによろめき両手を投げ出し倒れた


「うっ……ゴホッ!」

「大丈夫ですか!?」


雑に落とされたリンクさんが床に手をついて咳き込んでいる
さすがに締め付けられた力に息ができなかったのか、立ち上がれそうにない

しかしデカボコブリンが倒れた振動で正面の橋の袂が壊れ、片側の支えを失った架け橋にメキメキバキバキと亀裂が走る音がそこかしこから沸くように聞こえる


「うわっ!?」


するとついに限界がきたのか
バキッ!
と大きく割れる音と地面が沈み、私たちがいる橋の中央部が切り取られるように崩れ落ちた


「ちょっ、とまっ…」

どこか逃げるところも取り付く余裕もなく、壊れた足場とともに空虚な谷に落ちていく


「てぇえええ!!」


飛び出している岩や岩壁に擦れながらガラガラと破片を飛び散らせながら衝撃に吹っ飛ばされないよう橋にしがみつく

巻き起こる風と迫る谷底
木片に頰を切られて、肩口に尖った岩が掠った
谷に挟まれるように橋が削られていき、その摩擦に落ちる勢いがなくなる
狭まっていく底に対してつっかえ棒のようになる橋は最後に不安になる振動をさせたが、なんとか落下を止めた


「……止まった?」


よもやあそこから落ちて助かったのか?と恐る恐る顔を上げたが、上から剣が落っこちてきて、私の顔の横にドスッ!と突き刺さった


「っ!」


その衝撃か、私がびっくりして動いたことでか
バキッ!!
と木が折れる音がし、二段構えになっていた橋の支柱が折れて今度こそ地面に落とされた


「いって!!」


しかしもうすぐそこまできていた地面に落っことされた程度で済み、痛みに泣きそうにはなるが、痛みを感じられるのは不幸中の幸いとも思えた


「……っ…大丈夫…?」


橋の瓦礫の中からリンクさんが出てきた

どうやらふたりとも死なずにこれたようだ


「生きてはいます……。リンクさんこそ大丈夫ですか?」


意外にもダメージはそこまでなかった私は起き上がって、落ちていた剣を瓦礫の下から拾った


「……光が見える……なまえ、出口だ!」

「え!?」


その言葉に剣を持って振り返ると、確かに少し先に白い光が差し込んでいるのが分かる

リンクさんの元に行き、顔を合わすとその光に駆け寄った

ミドナさんの言っていた通りに岩に囲まれた洞窟を通り、抜け出せばそこは外の世界だった

緑の平原が広がり、太陽は高く眩しく輝いている


前から吹く風が草の匂いを連れてきて、暖かい陽射しが私たちを照らす

信じられないような光景の気がして言葉が出ない
後ろを見るが、あれだけいたボコブリンたちは誰一人と追いかけてきてはいない


そしてふたりして呆然とその景色を数秒見てからじわ〜っと目を合わせ


……。









「やっったーー!!」


歓喜がこだました


ふたりして手を広げかけたけど、私が生身の剣を抱えていたことに気付いて慌てて動きを止める
リンクさんに剣を返した私は、再び出れたことへの喜びに両手をあげて、その場にのけ反るように倒れ込んだ


「やっと出れた〜……太陽の光が身に染みます〜!新鮮な風も身に……いや傷口に染みるなあ!」

「ああ!いたいた!よく生きてたなオマエら!」


剣をしまうリンクさんの後ろからミドナさんが洞窟から出てくる
私はその声に上半身を起こしてミドナさんを見る


「ミドナさん〜〜!!」


正直ここに出るまでにミドナさんの力は相当頼ってきた
彼女がいなきゃ今頃普通に死んでた


「落ちたの見た時はまじで終わったと思ったぞ。
 せっかくこのワタシがあの王サマ気取りを倒してやったのに、落ちて死なれたんじゃ笑えないよ」

「せめて悲しんでくれないかな」


ワタシの涙は高いんだぞ!
とリンクさんと喧嘩してるミドナさんに、立ち上がった私は容赦なく飛び付いた


「ミドナさん!!」

「うぉっ!」

「ミドナさんは大丈夫ですか?怪我ないですか?剣持ってたけど…あれは身体に悪くないんですか?平気ですか?」


デカボコブリンに投げた剣は光の領域の、しかも聖域とかいう所ににあったものだ
どういう仕組みの物なのかは知らないが、どう考えても影の領域の人にとって良いものではないだろう


「いろいろっ……色々同時に言うな!
 すっとろいオマエじゃないんだから怪我はないし、ワタシもそこらの弱っちいザコじゃないんだからあのくらい平気だ!」

「良かった〜」


私のバカみたいな質問にも律儀に答えてくれたミドナさんは、ぬるりと私の腕から抜け出て髪で私をデコピンする


「……それに、今のオマエに心配されるほど重症ならワタシは骨の1、2本折れてるぞ。」

「え、どういうことですか?」


ミドナさんがダメだこりゃと言わんばかりに首を振ると、影に引っ込んで「とっとと休め。また湯の中ににぶちこまれたいか?」と言う


確かに全身至るところ痛いし、誰のものかも分からないくらい色んなところに血がついている
満身創痍とはまさにこのことだろうと自分を見て思う

とはいえ今はあそこから生きて出られただけ十分功績だ
死ぬこと以外はかすり傷


ミドナさんの言った湯の中というのはおそらくゴロンの聖地の温泉のことだろうが、以前傷の治療という面目ですげー雑に沈められたことがある
しかし今は自分から沈みたい気分だ


とにかく今は出られた喜びもそこそこに荷物も置いてきていることだし、あまり行きたくはないが、あの森の小屋に戻ることとなった
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