死中求活

□ほんとのほんとは
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真っ暗な道を進んでいくと、キラキラ光る泉の前まで辿り着く

暗がりの中の唯一の明かりだとつい目をやると、中からはこの場の全員を呼び止める、澄んだ声が聞こえてきた

それにはもちろん聞き覚えのある声で、特に驚くこともなく泉を見たが、何だか声が弱々しい


「わたくしは……この泉の精霊……」


呼び止められたままに泉へと足を踏み入れると、途端に何か空気がピリッと鋭い嫌な空気が肌に触れた

それは何とも形容しがたく、今までに感じたことのない、重たい空気だった

私がそれを感じたのは1番遅く、とっくに気付いていた狼先パイは耳を揺らし空を見上げた


「危ない!」


すると危険を察知した精霊の声が激しく響き、それと同時に泉を囲うように黒い岩がいくつも空から落ちてきた


「おわあ!!」


狼先パイの視線に気付いて同じように空へと目を向ければ、そこには私の目がおかしくなったのかと思うほどポッカリと黒い穴が空いていた


「影の者が……来る……!」


精霊の弱々しくもハッキリと言ったそれは私の耳にちゃんと届き、確実によくないものだと認識した

すると間髪いれずにその穴から更に黒い塊が落ちてきた

泉の水を跳ねあげ落ちてきたそれは、真っ暗な炭のような大きな身体に、黒と赤の不気味な模様が描かれた化け物だった


「まじか……」


二本足で立てども人ではない
大き石の仮面のような物を頭に取り付け顔はなく、言葉が通じるような雰囲気はまるでなかった


これにはさすがの私もふざけていられず脳の危険信号が鳴っている

しかし周りを囲う黒い岩は何かの力を宿しているようで、赤黒い壁を作り出すと何人も出入りできなくしていた

誰が鳴らしたかゴングの音が自分の中だけで響き、完全に死んだと疑わなかったその時、狼先パイが敵より早く動いた


「ガウッ!」


全く怯むことなく体長およそ二メートルの化け物の首にその歯を立て、恐ろしく早い動きで噛み千切った


「っ……」


それはまずいと顔を反らし、グロい音に肩を上げながらぎゅっと身体に力が入る

化け物はグラリと力を失い、その場に倒れ伏した


「うぶっ!冷たっ!」


やはりそれ相応に体重も大分あるらしく割りと近くにいた私は大いに跳ねた水をもろに喰らった

最悪なんですけど

もう動かない化け物を確認し、その姿をもう少し見ようと目を張った瞬間

ボンッ

と、少しの出血も無しに体が散々に爆発し、黒い小さな欠片になり空の穴に吸い込まれていった

「…………な、なんだったのか……。」

それに目を捕らわれているとカッと泉が光り輝き、再び声が響いた

「勇猛な若者よ、わたくしは神々の命により、ハイラルを守る光の四精霊、ラトアーヌ。」

ここで初めてその姿を現した精霊は何だかヤギのような形をしており、まさしくトアル村の守り神としてはピッタリな精霊だった
私、今までこの精霊に若干失礼なこととか言ってたのか。大変失礼致しました

「貴方が倒した魔物は光の力を狙う影の者達です。」

ついさっきの戦いなんてなかったかのように落ち着いてる狼先パイに精霊様は力を取り戻したと言わんばかりに弱々しさをなくして話をし始めた

「すでに光の領域を守る三人の精霊達は力を奪われ、黄昏の黒雲が覆う影の領域に支配されてしまいました。」

ハイラル城に居たゼルダ姫様も言っていたことと重なる領域の話だった
どうやったら領域が変わってしまうのかと思っていたが、精霊という概念があったことを再認識する

「このままではハイラルだけでなく、光の領域全土が影の領域の王の手に支配されてしまいます。」

深刻な話に私も真面目に聞いていた
というかここまで追い詰められている光の領域はもうどうしようもないんじゃないかと思うのだが……
と眉間に力が入り始めた

「それを防ぐには影の領域に捕らわれた光の精霊達を解放しなければなりません。」

「なるほど……でもその四精霊とかっていうのは……そのー……死んじゃってたり、とかっていうのはないんですか?」

影の者とかっていうのがそんな光の領域に希望を持たせるような事をするのかと心配になり質問すると

「精霊は神によって創られたものであり、わたくし達はこの世界の終わりまで続くもの。心配はありません。」

「あ、そうなんだ……。」

「しかし、捕らわれた光の精霊の力を取り戻すのはそう簡単にはできることではありません。」

とりあえず根本は保証されてるんだなと思ったが、そもそもそこにたどり着くことすらできないと精霊様は言った
確かに光の領域の人達は影の領域に触れただけで魂のみになってしまい、自分も保てない状態で精霊を助けるなんてそりゃできない


「でもそしたら……誰もこのハイラルを救えないじゃないですか。もう、どうしようも……」

「いえ、まだ希望は残されています。……それは神が選びし、トライフォースを持つ者。
……貴方しか、居ないのです。」


と、狼先パイを見てそう言った
狼先パイは頷くもなにもせずにただジッと光の精霊を見ていた

「……あ、あなたしか居ないって…狼先パイ……世界、救うんですか?」

ここまで散々助けてもらった身ながら思うのだ。

狼に世界存亡託すの???

いやほんと失礼無礼極まりないんだけど、それは分かってるけど、今世界は藁にもすがりたい気持ち、猫の手も借りたい。そんな状況なんでしょうけども。

確かに私はこの命散々助けていただきここまでこれた

そして私との意思疏通も多少ながらできてはいる。大概は私が理解できていないが、それでも向こうには私の言っていること。ミドナさんのおっしゃったことが分かっているようだけど、パン君よりかしこだけども、それでも、それでもよ

狼に救いを求めるの??

人でもないの??

しかし私がここにきてそんなことを言える訳でもなく。ただ黙って聞くだけに撤した

「貴方はまだ気付いていないのです…本当の力に。影の領域に触れたものは元の姿には戻れません…。」

「え?」

元の姿?何それ誰それやだそれ
狼先パイって…

私がハッとして口元に手を当てて狼先パイを見る
するとミドナさんも急に動いた私をビックリしたのかそうじゃないのかハッとした表情になり

「まさかオマエ……気付いたのか……?」

「や、やっぱり…その反応……ミドナさん!狼先パイは……」

ミドナさんには珍しく私に目を大きく開けて凝視している
私も事の重大さに喉をゴクリと鳴らして言葉を紡いだ

狼先パイは……狼先パイは………







「オスだと思ってたけど…実は……メスだったのぉ!?」

「んなわけないだろ!!!」

「そうだよなぁ。」

まあ皆分かってたよな。ここでボケがくることぐらい。ほんとごめんな頭弱くてよ。

「しかし、元の姿に戻れないとは言いましたが、貴方の姿を変えたフィローネの森を、光の精霊を甦らせ、光の領域を取り戻せたなら…貴方の姿は戻るでしょう……。」

私たちが正しく犬も食わない会話を他所に
光の精霊は狼先パイにそれを最後に言っては、眩しすぎた光は泉に還るように消えてしまった

「…………消えちゃいましたね。さすがに機嫌を損ねたのでしょうか。」

「誰かさんがうるさくしたからな。そりゃ光の精霊にしたって怒るだろうよ。」

「やっぱり私の……!すみませんでした。」

「そんな冗談は置いといてだな、とっとと元の姿に戻してくれるフィローネの森に行くぞ。ま、ただで戻してくれるなんて、簡単にはいかないみたいだけどなぁ?」

珍しく親切に次の行き場を教えてくれたミドナさんに少し驚きながらまだ知れぬ狼先パイの本当の姿に思い馳せた


「あのー本当の姿ってなんですかー?キリン?ねこ?それとも植物?」

「……なんでそんな微妙なチョイスなんだよ…それだったらこのままの方がいいだろ」

「確かに……え、じゃあ何ですか?鳥?飛ぶ??」

フィローネの森に向かう最中にさっきの精霊の言ったことに気をとられずっとそれについて考えていた

歩く足を止めずに狼先パイに顔を向けて上半身だけを屈めて聞くとミドナさんが影から呆れたように

「オマエな、コイツがオマエに分かるように喋れると思ってんのか?」

「いえ……ミドナさん知ってそうな感じですけど……ここまで教えてくれなかったってことは、聞いても教えてくれないかと……。」

「そうだな。オマエにも学習能力があったんだな。良いことだ。」

「またバカにして」

パターン決まってきたなあとふてくされて
灯りもない真っ暗なさきの道を見て溜め息をつくと急に膝裏にもふっとする

「わっ!あ、お、狼先パイ……」

突然の感触にビックリして顔だけ振り向くと私の足によりそった狼先パイとバッチリ目が合った
足に寄り添い目を合わせたままぐるりと1周する狼先パイに釣られて私もその場で回ってしまった

「な、な、なに何??何ですか?」

私の周りを1周するとその流れでまた先に進み始めた

一体どういうことなんだろうか
先を行ってしまう狼先パイの後姿に首を傾げながらも
謎が解けるわけじゃないと諦めて後を追いかけた


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