軽薄短小
□加虐心は唐突に
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ベッドはふたつあった
入り口から近い方と、その奥の窓に近い方
別に特に決まりも無いし、置かれている場所以外に何の違いもあるわけじゃない
その日はたまたま私が奥だったってだけ
そしてたまたま月の光がはっきりしてて、その光がたまたま顔にダイレクトに当たって起きちゃって……
また寝ようとしたけどあんまり喉が乾いていたせいで眠れなかった私は、ロビーに置かれてるお水を飲みに部屋を出た
廊下の灯りが眩しくて、開けたくない目でふらふら歩きほとんど目を閉じたままお水を飲んだ
あくびをしながら部屋に戻り、目に滲んだ涙に瞬きした
寝起きの体に対して、廊下の空気がやけに冷たくて、早くベッドに潜りたいと布団をめくって膝からよじ登る
布団を取ったとき、確かに若干の違和感はあった気がしたが、目もほとんど開いてなければ、廊下からの灯りの差もあって何も見えてない私には気にすることもなかった
そのまま枕元に頭を寄せたまま入ろうとした私の首に、覆うように何かが当たって押さえられ、ぐいっと前に引っ張られる
「ぅうわっ」
そのことにびっくりして、出し切らない喉で声を上げ目を開けば、目の前にはリンクさんが居た
「っ!」
予想外な視界に目が覚めるほど驚いて飛び退こうとするも、元々首を押さえられてた手と、ベッドに着いていた腕を掴まれて僅かに体を揺らすだけとなった
「…っあ……え……あぁ……」
「………」
私と反対に驚く様子もなく、少し体を起こした態勢でこっちを見てるリンクさんに、頭でゆっくりインストールする
場所間違えた
びっくりした反射で体に力が入っていたが、ただそれだけのことだと理解すれば徐々に抜けて張っていた肩がストンと落ちる
「いや……ああ……違った………すみません…」
めくりかけた布団を戻しその手で寝ぼけていた頭を押さえ、せっかく休んでたところを邪魔したのだと考えを追いつかせる
そうして謝り離れようと思ったが、首に添えられた手がそのままで、頭さえ上げられない
「なまえ」
黙ってこっちを見てるばかりだったリンクさんが起き上がり、首にあった手は私の背中に降りていく
すると何を思ったのか、腰まで降りたその手は、急に耐えられないほどの力に変わり、同時に腕を引かれて布団の中に引き摺り込まれる
「ちょっ!?」
止める暇もなく変な態勢でベッドに乗せられたと思えば、腕を離され後頭部を抱かれると、腰から膝裏まで降りた手で見事に連れ込まれる
抱き寄せられるその勢いで、リンクさんの開いていたシャツから覗く鎖骨辺りに顔を寄せる形となり、危うく口がつきそうな事に手を挟んで全力で対抗した
あぶねえ!!セクハラで訴えられる!!
「…………夜にさ、」
そんな倫理との戦いをする私に、リンクさんは頭上から言葉を落とす
色々どういうつもりなのかわけの分からない私は、頭を押さえられたままで見上げることもできないとそのまま聞いた
「寝てる人の…ベッドに入ってくること……何て言うか知ってる?」
「あっ…いや、その…すみません…よく見てなくって……」
やばい怒ってるじゃん
気まずい空気におそるおそる謝って言い訳をする
私としては事実だから言い訳ではないが、やられた被害者にしてみれば、それにも等しいことであった
それを思ったせいで、より反省の意を込めようとしてややこしくなった私は言葉を濁した
「そうじゃなくてさ」
私の言い訳が見当違いだったのか、少し体を離してこちらを見てくるリンクさん
その動きに緩んだ手の力に見上げて顔を合わせると、彼はずいぶん優しい笑顔を浮かべて
「それ、夜這いって言うんだよ」
世迷言を言ってきた
「ちがっ…!!!」
聞き慣れない言葉の意味を理解した私は、反射で頭を反り返し、間に挟んでいた手でリンクさんの体を押してベッドから出ようとするも、それを許さないというかのように足を絡められて力を入れられる
「そんなつもりじゃなくてっ…!間違えたんですよ!」
「でもキスしようとしたでしょ」
「なにッ…!?誰が!?」
「なまえが」
途端に活発になる脳と口で反論するが、まさか枕に頭を預けようとしたときのあの行動を言っているのだろうか
人がいるなんて思ってなかったんだ!
「そっ…んなわけないでしょう!どんな人間だと思ってんですか!!」
「もう遅い時間なんだし、あんまり大きい声出さないで」
そう囁くように口元に人差し指を立たせて私に言う
誰のせいだ!!
その行為すら、今の私には頭に血が上る材料となり、叫びたくなる
いや、元を辿れば私のせいともなるが、あまりの解釈の違いに冷静さを欠いている
「っ……いや、そうですね……私が悪かったんでした……。
眠りを妨げたりして……ほんと…反省してます。もう二度とこのようなことが無いようにします……」
原因の発端を考えれば、意思は違えど私のミスには変わりない
ギリギリ保った理性に誠心誠意の謝罪をしながら頭を落ち着かせる
絶対明日もこのことをいじられるんだと嫌な予想を立てながら目を逸らせば、それを聞き入れたのかそうでないのか
リンクさんは黙って私を見つめたあとに瞬きを数回した
「別に俺、怒ってないよ」
「え?ああ……それは良かったです……」
じゃ離せよ
なんて思うもそんなことを言える立場じゃないので言いそうになる口を閉じておく
するとその代わりのように、トーンをそのままリンクさんが喋る
「怒ってないけど………何もしないの?」
「は?」
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