軽薄短小
□ラッキースケ…?
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久しぶりに裁縫なんかするけど、人のをやるのは初めてかもしれない
村では皆できて当たり前だったし、村を出てからはやることもなかったから人にやってあげるなんて機会がない
だからといって何ってことはないけど、雑にはできない
着たままの服に針を刺すわけだから丁寧にやる
袖口の糸の通ってた跡にボタンを合わせて縫い付ける
また取れて今度こそボタンがなくなったらいけないからちょっと過剰に糸を回す
他のものとは糸の色が違うから、これから見かけたらつい気にしちゃうかもなんて思いながら、針に糸を巻いて引っ張って切る
終わったと知らせようとしたらなまえと思い切り目が合った
さっきから見られてる気はしてたけど、手元じゃなくてどうやら俺の顔を見てたみたいだ
気まずそうに目を逸らされた
別に言及することもないし、終わったと言えば確認して感動している
「あ、わあ…ありがとうございます。凄い、めっちゃきれいに付いてる」
この程度少しも凄いことじゃないけど、幾分オーバーに事を浮立たせる癖があるのにはそれなり慣れた
知能のない魔物一体倒しただけで名誉あることのように褒めてくるし、この世界の常識を教えただけで博識扱いされる
逆の立場で俺がなまえにすることもあるんだろうから、そのことについて止めることもしないけど
新しく針に糸を通して、もうひとつの綺麗に洗ったボタンを手に取って襟をめくる
針を刺さないように、少し大袈裟に服を引っ張ってボタンを当てがい針を通す
「……」
その時、何気なく目に映ったのはなまえの服の中
当然上着ではなくシャツに付けているのだからそれより下がなくそのまま肌だ
大したはだけでもないので、そこまで全部が見えるわけじゃないが…
確実に……見てはいけない気のする際どいところまでは見えている
突然降って湧いた気まずさに本人をチラッと見るが、横を向いてこっちを見てない
まずい
さっきはあんなにこちらを見ていたのに、ここをやり始めてからは全く見ようとしない
完全に顔を逸らされている
女の人は見られているのは一瞬でも分かると言うし、もしかしてバレているんだろうか
というか一見この状況って、服の中を覗こうとしている行為にも変わらない気がしてきた
実際こうして見えてる訳だし、指摘されたら言い訳できない
外側から針を通すにあたって襟を引く
針を刺さないように過剰にめくった気はするが、他意はない
そう言い聞かせながらゆっくり糸を引っ張り余分を無くす
「あー……」
するとなまえが顔を逸らしたまま、何か残念そうに声をもらす
なんの感情の表しなんだろう……
いや、ちょっと待てよ。この明らかな視線の逸らし方的に、元々見えることを分かっていたのかもしれない
自分の体のことなんだし、女の人ならどの角度から見たら何がどう見えるとか…そういうのは把握してたりするのかもしれない(そんなことはない)
となれば、最初に俺が付けると言った時に断ってきたのはそういうのを避ける為だったのかも
ほとんど問答無用でやってしまったが、ただ見たい人だと勘繰られたりしただろうか
そんなつもりなかったのに…
でも今さらやっぱり自分でやってと言うにはあからさま過ぎるし、実際指先も怪我してる
それにこの位置のものも自分でやるには中々難しいだろうし、このまま見てない振りしてやるしかない
とはいえここで俺に倫理観があったなら、ひたすら手元に集中してさっさと終わらせるべきだろうが……
見ないでいられる方が無理がある
………くそっ…………
なまえのことだから全然バレてないということもありえそうだし、何より分かりやすく視線を逸らすのもバッチリ見たと言っているようなものだ
「…………」
今、ここで……見えたと言ったら、なんて反応するかな
知ってると頷くだけか、びっくりするのか、恥ずかしがるのか…それとも気にせず受け入れるのかな
もし今ここで、何かの間違いで彼女を………
肩に手を置いて、少し力を入れたら多分あっという間で……ベッドに倒れてきっと何が起こったか察せないだろうから、考えている間にたったひとつボタンを外せば………
止められたところで力では負けないし、どうせ何にもできない
……もしそれができたなら
それはどんな、感じだろう
ちょっと、気になるな
「っ…」
瞬間、一体何を考えたか信じられないような気持ちになり考えを消す
これ以上やってたら変な気を起こしかねないと最後に通した針に糸を巻き引っ張った
その時につい慌ててやったせいで針を指に引っ掛けてしまった
「いてっ」
そんな大したものじゃないのに、不意の刺激を声にした
なまえがパッとこちらを向いて手元を見る
「大丈夫ですか?」
何となく目を合わせ辛いから視線が流れたことは少し助かった
「直ったから、もう大丈夫……」
糸を切って終わりにし、ふたつの意味で伝えれば手で確認するように触りながら笑顔になる
「わ、本当だ。凄い。ありがとうございます」
針と糸を箱に戻しながら、ボタンを触るその動作にドキリと心臓が鳴るが、大丈夫そうだ
バレてなさそうではあるが、さすがに悪い事をしたと謝ると、何かを勘違いしたのか「いえ…?ありがとうございます」
なんて返された
実情を知ってればそんな返事はできないだろうと安心するが、確信は持てない
確認と罪悪感を半々に、荷物を持っていつでも出られる準備をするなまえを見た
「……ボタンが取れたら………俺の顔殴っていいから」
「え」
予想外の言葉を浴びせられた様子に、今度こそ安心する
意味が分かってなさそうに不可解な表情を浮かべた後
「取れないようにします……」
と、頷いた
そのボタンが緩いことに気付くことはあるだろうか