軽薄短小

□おばけなんか
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「でもやっぱり無理かも……こんな怖いところでそんな急に考えろって言われても……さすがに私にも矜持ってありますよ。白昼堂々染まれない!」

「注文が多いなあー、思考の限界だろ。これ以上ないよ。あとは行動にするしかないぜ」

「……」


ミドナさんの言葉にリンクさんが動揺した

でも私はリンクさんとは反対の位置のミドナさんを見ていたから特に気付くこともなく話を否定する


「そうは言ったってこんなところにラブラブカップル呼び立ててイチャイチャしてもらうわけにいかないじゃないですか。そもそも行動に移すにしても、この洞窟を抜けることが目的なんですから。本末転倒になりかねませんよ」

「簡単な話かと思ったが、こう考えれば意外と難しいな………そうだオマエ、手が好きなんだろ?」

「えっ?ああ、まあ……」


やっぱり無理があった話かな。と諦めの雰囲気が出てきたとき、ミドナさんがさっきの性癖のときの話を蒸し返して聞いてくる

私は一般的な意見で手フェチの例をあげたまでで、私が好きとかそういう意味で言ったつもりはなかったが……
とはいえ別に嫌いじゃないし、なんなら好きじゃないわけじゃないので素直に頷いておく


その返事を見たミドナさんがまた私とリンクさんの間に来ると、そのままリンクさんの手を引っ張って私に「ほら」と出してくる
ミドナさんの前には人権とかあんまりないんだろうな

どんな意図でそれをされてるのか疑問を口にするが、乱暴に掴まれ差し出された左手がかわいそうだと一応両手を出してみると、そのまま上に乗っけられた


「どうだ?なんか思うところないか?」

「ええ?お、思うところ……ちょっと…失礼しても……?」

「……好きにして……」


全部どうでもよくなってそうなリンクさんの脱力した手を受け取り、許可をもらったので遠慮なくグローブを取った


「わあ見て!ミドナさん!トライフォース!」

「知ってるよ。断然オマエより詳しいよ」


わあー。とグローブの下の手の甲に記されたトライフォースを見て感動する
もう人の手とかお構いなしにミドナさんの前に引っ張るし、まじまじ見る

しかしやっぱり筋肉質な手だな
私のとは似ても似つかない
骨やら筋やらが浮き出てる
なんか不安になってきた


「すごいすごい、サイズ結構違いません?関節一個分くらいでか……え、皮膚かたっ…」


自分の肌が柔らかいとは思ってなかったが、いざ男の人の肌を触ると性別の違いを感じざるを得ない

すごいなあ……なるほどなあ……勉強になる…


「……転ぶよ……」


そんな風に感動して、わさわさと触って食い入るように見ながら歩いている私に注意が入る

しかしそんなの気にしてられない私は、またもミドナさんに見せて自分のものかのように自慢する


「見て見て、凄くないですか!ここの筋……どう頑張っても私じゃ出ないんですけど……なんかいいなあー大人っぽい」

「ワタシにしてみれば種族も違うから当然の違いさ。感動もないよ」


並べた私とリンクさんの手を見て言った

それもそうかと頷いたが、ミドナさんはさらに「しかもソイツのじゃなぁ……」と両肩を上げた


「うっそでしょ。国宝イケメンフェイスの御手ですよ?情動なしの方が無理ありません?」


凄いと思うんだけどなあ…と言いながらリンクさんの手のひらをじっと見る

当然だけどリンクさんにも手相がある
基本的にリンクさんを人だと思ってない節があるからそういったもので同じ生命体だと気付かされる


おそらく生命線と思われた親指と人差し指の間の線を見つけたが、手相が読めるわけじゃないので長い短いは分からない
それでもぜひ長生きしてほしくて、伸びろーと思い、刻まれてる生命線よりオーバーに手のひらをなぞった


「っ!」


するとその途端、それまでやられっぱなしになってたリンクさんの手に力が入り、バッと引っ込めて私を見た


「ぇ…あ……すみません……」


突然すぎたその行動に私もミドナさんも驚き見る

リンクさんは怒ってるのか驚いてるのか分かりづらい表情で、それの原因が分からず、少し時が止まったように遅れて謝った

しかし私の謝罪にも反応なくギュッと手を握ると、目を逸らして小さく「いや……」と首を振った


「あっ!!もしかして何かいました!?」


何か急に申し訳なさが出てグローブを返そうとしたが、何であの反応をされたか考えた瞬間、ハッと気付いた

とうとう出たか!?

自分の後ろを振り返りながら、グローブを受け取ろうとしたリンクさんの手にしがみついた

不意すぎる登場に慌てふためく私にリンクさんが否定する


「いやっ…違う!何もいないから!大丈夫!」

「え!?じゃあミドナさん何かした!?」

「してないって!何だよなんも居ないぞ!」

「だから何も居ないってば!」


あのリンクさんがびっくりするなんてよっぽどのやつに違いないとびびって、ふたりしてリンクさんの側に寄った

本人は否定してるけど、あの優しいリンクさんならこちらが怖がらないように言ってくれてる可能性もある
失礼だが、優しさからくる嘘かもしれないと信憑性に欠けるのだ


「平気だから!離れて!」

「はっ、はい……すみません……」


リンクさんの全力否定とともに、つい怖さに夢中になってしまい、歩けもしないくらいにひっついていた身体を押されて反省した

いくら見てても何も見えない事実に、身体を離して今度こそグローブを返す

本当に何も居ないのか疑いの眼差しで壁際を見ていたが、グローブを嵌めて歩き出したリンクさんに着いていく


「ほ…本当に何も居なかったんですか?私に憑いてるとかじゃないですよね?」

「居ない……居ないから、あんまりこっち見ないで……」


居ないにしてはその反応はやばいだろ!
絶対なんかあったじゃん
さっきより足速いし

怖い怖い怖い!本当に無理!
ホラーにしてもおばけの類は本当に無理!
この際ゾンビはいいけどおばけは駄目だろ!


「え!まじでやだ!何見たんですか!本っ当に怖い!」

「何も居ない!何も見てないから!触らないで!ほら外!なまえ、見て、外!」


リンクさんの反応に沸く疑問と同時に恐怖が出てきた
私の真後ろに居たのではないかと、反省の色もなくまたリンクさんの腕を引っ張って後ろを見た

騒ぐ私の頭をリンクさんがもう片方の手で鷲掴み、力任せに前を向かせられる


「おぐっ!あ、わあ外だあっ…」


無理矢理向かせられた方角を見れば、確かに洞窟の出口が見えた

外からの白い光が覗いたことで多少安心感が出て、首の痛みに恐怖が収まった

とりあえず言われた通りにまた離れて外に向けて早足で出た
一緒に来たミドナさんが、切り抜けたな。と外を見て言う


「ワタシのナイスなアドバイスによって事は免れたな。感謝していいぜ」

「はあー良かったー………私の後ろに変なやつ居ないですよね」


太陽の光を一身に受けて息をつく

しかし拭い去れない疑いをかけて、ぐるりと自分の肩の後ろを見るが、特に重みも気配も感じない

本当に何もなかったのかな


「何にもいないから、大丈夫だよ……絶対平気だから」


私の猜疑心に、あとから来たリンクさんが疲労を感じる声色で言う
もう必要のなくなったカンテラの火を吹き消している

リンクさんが見える人とかそうじゃないとかは知らないので、もし本当に何も見てないにせよ、絶対平気とは言い切れない

それこそ、幽霊やお化けなどという話が出てきた大元を考えれば存在を否定しきれはしないのだから
火のないところに煙は立たない精神だ

私は納得いかない気持ちを持ちつつもとりあえずは無事、あの暗い洞窟を抜け出たことでこれ以上は何も言わないことにしたが
その疑問がミドナさんのこともつついたのか、リンクさんに言及した


「なんで絶対なんて言えるんだよ。オマエが知らないだけであそこにはあの洞窟に迷い込んだ魔物の悲しき魂なんかが彷徨ってるかもしれないんだぜ。
 オマエがちゃんと『見える』ヤツなら話は違うけど……別にそうじゃないんだろ?」

「まあ……別に……そうじゃないけど……」


もはやミドナさんもその存在を信じ始めたような口振りだが……

そうして言われた言葉に否定できないまま口籠りながら私が出した手にカンテラを渡してくれる

まだちょっと熱のあるカンテラをカバンに入れようとゴソゴソといじっていた最中に、喋っていたふたりの間の空気が変わった


「………おい、リンク…オマエ、ずいぶん顔色………」


何か気付いたようなミドナさんの一言に、あからさまにリンクさんが顔を伏せた


「え」


私は見ていなかったから何の話か分からずに反対に顔を上げたが、分かりやすくこっちを見ないように背けているのをこの目にする

ミドナさんがその先に回り込んでリンクさんの顔を覗き込もうとするが、片手で顔を覆うとくぐもった小さな声で「見ないで………」
と呟いた

するとその反応にミドナさんがハッ!と息を飲むと、一瞬で楽しそうな顔に変換して


「エロいこと考えたな!!」

「違う!!」


ミドナさんの言葉に伏せていた顔をガバッと上げて、真っ赤な顔で否定した

まじかよ!!

私もその言葉にびっくりするが、視認した途端に良いおもちゃを手にしたような感覚になる


「本当ですか!?」

「だから違うって!」


私が聞くとその顔をこっちに向けて怒るが、さすがにその顔色じゃ無理がある

さっきまではカンテラの赤い光だったのもあって気付かなかったが、いつからそうだったんだろう


「何考えたんですか!?聞きたい聞きたい!」

「きっ……!?だから考えてないってば!」


リンクさんが考えるフェチとか色々、そんな話したことないし感覚があるものとすら思い至らなかった
俄然興味が湧いて飛びつくように聞きまくる


「おいリンクいいだろ!減るもんじゃないからさ!誰で何を考えたんだよ!」

「嫌だ!絶対減る!触るなよ!」

「減るってことはやっぱり考えたんでしょう!教えて教えて!」

「〜〜ッうるさいな!くっつくな!」

「お願〜い!どう〜〜〜しても知りたい!これが聞けなきゃ心残りすぎてお家に帰れなーい!」

「じゃあ帰らなくていいだろ!!一生教えない!」


ふたりして嫌がるリンクさんの腕と肩に絡みつくように詰め寄るも、さらに顔を赤くするリンクさんは怒って振り解きにくる

でもここぞとばかりに聞くまで離れないと腕にしがみつくが、とっとと進もうとするリンクさんにそのまま引きずられる


「そんないじわる言うなよ!その勇者サマの暴露でどこかの誰かが救われるかもしれないだろ!得意分野の人命救助だぞ!」

「俺がいじめられてるんだよ!誰も助かるもんか!」

「お願いお願い!絶対バカにしないですから!何でもする!何でもする!!」

「下手なこと言うな!今いちばん聞きたくない!」


その攻防は寝るまでやったが、田舎の祖母が危篤とか次のテストに出るとかあの手この手で頼んだが、残念ながら教えてもらうことはなかった

ので寝る間際にミドナさんと勝手に予想を立ててたらげんこつ食らった







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