軽薄短小

□逃げて逃げて逃げまくれ!
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陽の出ている時間というのもあって、森に入ってもボコブリンのような魔物の姿は一匹たりとも見えなかった
 
でもこの地面の下にはあの地下巣窟があるのかと思うと、怯えずには歩けなかった

あまり遠くでもなかった小屋に戻れば
あの馬小屋は黒く燃え跡となり、側にあった木にも燃え広がっていたのか馬小屋に向けて倒れ込んでいた


「あれっ、火事でもあったんですかね!」


小屋の方は全くの無傷だが、馬小屋だけ倒壊しているのを見て驚いた
昨日の夜はあんなことなかったのに


「誰かさんが置いてったカンテラの火が藁に燃え移ったんだよ…。雨で消えたみたいだけどな。
 おかげでワタシは別のルートを探させられて迷う羽目になったんだ」

「す、すみません……」


影から呆れたトーンで言われて納得する

だからミドナさん出口の場所知ってたんだ……
怪我の功名ってことにならないかな
危うくここら一帯森ではなくなるとこだったけど


「…でも、入り口は塞いでおいた方がいいよ。他にもあるかもしれないけど……それでもひとつはなくなったと思うことにしよう」

「まあ、あのザマなら誰も近寄らないだろうよ」


それよりも早いところ荷物を取ってこの森からはとっとと出て行こうと言われ、家の中に入る
家の中はやはり昨夜と様子は変わらず人の気配はなかった


「……」


あの馬小屋のこともそうだし、巣窟にあったパイプタバコ

やっぱりこの家の人は……


「…あ」


ふとそこで思い出す
そういえば私あのパイプはどうしたんだっけ

ゴソッとポーチの中を確認すると、あのパイプが入っていた
少し傷がついてしまったかもしれないが、無事壊れずに持ってきていた


「それ……」


私が取り出したそれを、リンクさんと影から出てきたミドナさんがじっと見る

地下で拾ったことを説明すれば、リンクさんが何とも言えない表情で黙り、ミドナさんもそんなリンクさんを微妙な顔で見ていた

持ってきてはいけないものだったろうか


「それ、この家の前に埋めよう。骨は……連れてきてあげられないけど……何もないよりマシだと思う……思いたい……」

「…そうですね…」




核心はつかなかったが、リンクさんの雰囲気を見て、多分『そういうこと』だろうと察した
言われた通りに家の玄関の少し前に浅く穴を掘って綺麗に拭いたパイプタバコを埋めて二人分のお墓を建てた

名前もないし、本人もここにはいないから本当にただの気休めでしかない
それでも…気持ちだけでもと手を合わせる


「…これ以上、こういう人が出ないためにも、これ以上影の領域の侵食を止めないといけないな…」

「そうですね……」


なんて決意も新たに手を合わせていたが、ふと思い立つ

確かにこの家の人たちはある日突然死に追いやられた被害者ではあるだろうが…

私たちがこのお墓を建てるには…その……下でだいぶ非道なことした気がするぞ……

私は他人の命を盾にしたし何人か谷底に落としたし、不可抗力ではあったけど思いっきり喉に剣刺しちゃったし
私の隣にいるふたりにいたっては欄干や岩で散々谷に落っことさせ、爆破に切り捨て、壁に磔、踏み台にしたあげく撃ち抜き片目ずつイった人たちだぞ

そんな集団に墓を建てられたことに関して、果たしてこれは彼らにとって良いことなのか?
そうなら今から下で絶命させた分のお墓をここに建てなきゃならなくなるぞ

い、いやでもあれはそもそも向こうが襲ってきている前提だから正当防衛として成り立つのか?
とはいえいくら魔物だったって、盾にするのは酷かったよな…何人かは見る影もなく地面のシミとなってたし……

うーんうーんと悩みながら手を合わせる私に、リンクさんが隣で「あ」と溢した


「そういえばボタン…ふたつ取れてたよね?せっかくだからここで裁縫道具借りて直しちゃおうよ。ちゃんと洗ってさ」

「え?ああ…まじだったんですね……そんな気にしなくていいのに……」


何の話かと思ったが
そういえばそんなこともあったと、ボタンの取れた襟口を触る

そこでようやっと私はリンクさんの格好を見て、自分が服を借りてることを思い出す


「そうだ。これ……多分私肩のところ破っちゃった気がするんです……あー、ほらここ……落ちた時に壁に擦っちゃって…ごめんなさい……」


肩口を確認したら袖の縫い目が破れているのを見た
非常事態とはいえ過失であったと申し訳なく思う

でも当のリンクさんは特に気にした様子もなく、そのくらい直せるよと笑ってくれた

でもふっとその笑顔のまま数秒服を見つめて、顔を上げて私を見てくる

やっぱ怒られるか?とちょっと身構えた私にリンクさんが手をぴくっと動かした

その動作に私はビクッと少し膝を折った


「別に……全く問題はなかったし、目的としては納得できたけど……ふたりに無理矢理脱がされたのはちょっと恥ずかしかった」


突然なにを言い出すのか…

……そういえばこの服を借りる時にミドナさんと一緒に剥ぎ取った記憶がある

あれはあの作戦に対して自体、あんまりいい顔をしなかったリンクさんに説明するのはちょっとめんどくさくなって、後で分かるように説明すればいいとミドナさんと示し合わせて追い剥ぎ行為に陥った

意図の分かってなかったリンクさん的には突然襲われた感覚だったかもしれない

こちらとしては上の一枚のつもりだったが、それも分からないんじゃよっぽど謎の辱め行動だったと今思いつく


「す、すみませんでした…ちゃんと洗いますし、私が直します……もうしません……」


する機会もないだろうがせめて反省の色を見せておく
でも何を思ったか、ついポロッと出てしまった


「まさかリンクさんにも恥ずかしいとかいう感情があると思ってなかったんです……」


いや、本音だけど
でもやっぱり言っちゃだめだった
言うべきじゃなかった
すでにちょっと怒ってそうな表情のリンクさんは呆れた笑いの後にいたずらそう〜に笑って


「………そうだね。やる方はそんなに何も思わないだろうから…………やられる気持ちを思い知った方がいいな!おら!脱げ!」


普段リンクさんが絶対言わなそうな言葉は聞き覚えある
あの時の私と同じように服を引っ掴んできた手はもはや破れた袖を気にして無い勢いだった


「ウッ…ウワーッ!ちょっと待って!すんませんでした!だはははくすぐってぇ!!ちょっとこのおててミドナさんでしょう!やめて!!」


なぜたか知らないが一緒になって参戦するミドナさんの小さくて冷たい手が私の背中に入ってくる
この場合はミドナさんも同罪だから一緒になってやる理由はないだろう

と、思ったが


「人間平等社会だから同じようにやってやってるだけだ!腕上げろ腕!」


なんて意味不明なことを言ってくる
もうただ私をいじめたいだけの集団だ


「あ"ははは!本当くすぐったい!わざとやってるでしょ!勘弁してください!!」












笑いすぎても涙は出ます







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