君の幸せを願ってる
□XII
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コンコン
「どうぞ」
『失礼します』
朝子はドアをノックして部屋に入った
そこには、ザクラがいた
「資料は一通り選んでおいたよ」
『ありがとうございます!』
「では、始めようか」
──────────
「あっ、ミツヒデの旦那ー」
「なんだ、オビか」
「“なんだ”って何ですか…
木々嬢じゃなくて申し訳ありません」
そう言って、恭しく腰を折り例をするオビ
「あーのーなー。俺をからかうのもいい加減にしろよ?」
「承知しました」
「本当にわかってるのか…?」
はぁ…とため息をつくミツヒデ
「あ、そういえば」
「どうしたんです?」
「朝子が珍しくザクラさんと居たなぁ」
「ザクラって……顔に切り傷がある人ですよね?」
手刀をつくり、シュっと顔の前を斜めに横切って見せるオビ
「ああ。あの方と朝子が同じ部屋に入っていくのを見たんだ」
「あの人が朝子とねぇ…」
「どうした?オビ。なんだか不機嫌そうだぞ?」
「そうですか?俺はそんなつもり無いんですけどね」
ミツヒデには、オビが冗談を言って誤魔化しているわけではなく、本当に無意識に不機嫌な顔をしているように思えた
「ま、俺たちにはあまり関係ないがな」
「んじゃ、仕事に戻りますかー」
頭の後ろで手を組んで歩き出したオビの後ろを、ミツヒデが何か考え込むような様子で歩いて行った
──────────
「申し訳ありませんが、私が教えられる時間はここまでです」
『いえ、十分です。ありがとうございました』
「今の時間で、あなたの熱心さがよく伝わりました。試験、頑張ってください」
『はい!では、ありがとうございました』
朝子はピョコンっとお辞儀をして、部屋を出て行った
『んーっと、次は薬室に戻らないと!』
そうして、朝子の忙しい1日が終わった
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三日目
その日のお題は料理だった
「それではよーい、はじめ!」
朝子の相手である料理人は余裕綽々といった態度で厨房へと向かい、一方の朝子は薬室へ向かった
それを見ている影が四つ
「あいつ…どこに行ってるんだ?」
「薬室だね」
「朝子はほんと、予測不能な行動を取りますねぇ」
「まあ、最後まで見届けようじゃないか」
そんな影に気づくことなく、朝子は着々と準備を進めていった
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終了時間になり、人々が集まった
「それでは、イザナ・ウィスタリア第一王子と、ゼン・ウィスタリア第二王子による審査を開始いたします」
衛兵の一声で審査が始まった
「兄上。どうして俺まで…」
「何故だと?ゼンに仕えるかも知れん者だ。お前にも決定権を与えるべきだろう」
そんな話をしている二人の前に、シェフが料理を持ってきた
「イザナ王子、ゼン王子、これを」
それは、美しく豪華な料理だった
シェフはこだわりを一生懸命にアピールしている
それを口にしたイザナ
「ほぅ。これは美味いな」
「さすが…と言ったところだな」
それは、一言で言うならば城のパーティーに出してもいいような料理だった
その後も様々な賞賛の言葉をかけた
そして遂に、朝子の番が来た
お皿を持って歩いて来た朝子は、二人の前にコトンと置いた
『イザナ殿下、ゼン殿下。どうぞお召し上がりください』
その皿の中身が見えた途端、2人は驚いた
だが、特に何も言わずに口に運んだ
「……!␣␣美味いな」
「優しい味がする」
『お褒めに預かり光栄です』
その皿の中身が観衆にも見えた途端、見た者はザワついた
「なんだあれは」
「ふざけているのか?」
「この国の王子にあんな物を出すなんてねぇ」
「静かにしろ」
イザナのその一言で、その場は静まり返った
まさしく、鶴の一声だった
「朝子は何故このような料理を?」
『はい。ゼン様の仰っしゃる通り、そんな貧相な料理を出すのは申し訳ないと思いましたが敢えてこれを選びました』
「ほう。敢えて…とは?」
興味を示すイザナに向き直り、彼女は再び言葉を紡いだ
『それは、どこの山でもだいたい採れる食材を使っております
もしかすると、山で野宿をしなければいけないかもしれない。そんな状態になった時に最適な物です
まず、必要な栄養素を沢山含んでいますし、体力がもつので疲労も貯まりにくくなっております』
「それはまた便利だな」
『それに…』
「それに?」
『イザナ様もゼン様も、ただ豪華なだけがお好きなのではない為、敢えて何処にでもあるような料理を私にできる最大限に美味しく作りました』
二人は朝子の話を聞いたあと、どちらが良かったか判決をくだした
その判決は、いかに………
To be continue……