君の幸せを願ってる
□T
1ページ/1ページ
『もうそろそろ受験かぁ…』
まあ、私には関係ないけどね
私、朝子は大学受験をしない…否、させてもらえないのである
学校の帰り道、ボスに出会った
『あ、ボスー。久しぶりだねー』
ボスはその名の通りここら一体の野良猫たちのボスで、厳ついと怖がられているけど私には懐いてくれている
私がよしよしと頭を撫でるとボスはオデコをこすり付けてきた
ふと前方を見ると、ボスの下に新しくついた子が車に引かれかけていた
『危ないっ!』
私は咄嗟に飛び出し、なんとか庇うことが出来た………が、私は引かれてしまった
『私の人生…ここまで…か……』
「ニャアォン」
ボスが心配そうに駆け寄って来た
『大丈夫だよ。はい』
私は猫ちゃんを渡してあげた
『ボス…野良猫ちゃんたち…よろしく…ね?』
「ニャオン!」
『さようなら…灰色の世界……』
私は自ら作った血の海の中、意識を手放した
手放す少し前、猫ちゃんたちの弔いの鳴き声が聞こえた
──────────
草の香りがする
『ここは……?』
天国……なわけないよね
どうやら何故か森の中に居るようで、私は取り敢えず歩く事にした
少し行くと話し声が聞こえた
私は咄嗟に茂みに隠れた
「で、ゼンは城壁から落下したわけ」
「言うなよミツヒデ!」
「でも事実でしょ」
「あははははっ!」
『────っ!』
私は声にならない声をあげた
こ、この声は……ミツヒデに木々さんにゼンに白雪!?
私は急いでその場から離れて遠くに行ってから息を整えた
『よ、よかったぁ…気付かれないうちに逃げれて……』
「なーにが気付かれてないって?」
びっくりして振り向くと、そこには目がやられてしまいそうな程の神々しく美しい顔があった
『お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?』
「あんた、大丈夫かい?」
ポンっと肩に手を置かれた
こっ、これは頭ポンポンならぬ肩ポンですか!?
『お、おおおおおオビ!?
しかも声まで一緒だ!すごい!神だ!』
やっぱりここは天国なのか?
と思っていた時、声をかけられた
「あんた主たちが通りかかろうとした途端逃げてたけど、アソコで何してたの?」
『あ、あれはただの通りすがりでですね。別にゼン…殿下たちを狙った訳じゃ……』
「ますます怪しいねぇ。変な服装だし」
『へっ?』
よく見ると制服のままだった
「よし、主んとこ連れてくか」
オビはそう言うと私の腕を掴んで引っ張って行った
『(手!腕を掴まれてる!)』
その時ふと気付いて、掴まれていないほうの手で頭を触った
『(よし、取れてない)』
アルビノの証拠であるプラチナブロンド(本人曰く白)の髪を隠すために黒のウィッグと、赤い目を隠すために黒のカラコンをしている
染めないのは、親友や祖父母がそのままのほうがいいと言ってくれたからだ
お世話になった人たちの頼みは聞けないはずはなかった
「あーるじー!収穫ありましたよー」
「え、収穫?」
白雪はさっぱり訳のわからないという顔をしているが、他の人たちはそうでも無さそうだ
『白雪以外気づいてたんだ……』
「!␣␣お前、何故白雪のことを知っている!」
チャっと剣に手を置くゼン
『えぇっと知り合いというかなんというか……』
「白雪、お前知り合いか?」
「ううん知らない」
『えぇっとー……私が一方的に知ってるっていうか………』
ますます怪しがるゼン
『いやぁ、ゼンの白雪の溺愛ぶりも相変わらずだなぁ……』
ボソリと呟いたはずなのに何故か聞こえていたようで
「お前、何をどこまで知っている!?」
『え……全部…?』
それを聞いてミツヒデと木々さんも驚いた顔をしていた
「ねぇねぇ、何か言ってみてよ」
『えっ……じゃあ』
オビの要求に素直に答えた
『白雪はクラリネス王国の宮廷付薬剤師でお父さんは武風、祖父母は酒場を営んでいた
ゼンはクラリネス王国の……今ってイザナ殿下は第一王子?』
「ああ」
『じゃあ第二王子で本名はゼン・ウィスタリア。特徴は…白雪を溺愛するも若干ヘタレ…?
で、ミツヒデがクラリネス王国第二王子側近で本名はミツヒデ・ルーエン
近衛兵団にいた頃にイザナ殿下に見込まれてゼンの側近になった。同じくヘタレ
木々さんもクラリネス王国第二王子側近で、本名は木々・セイラン
本当は御令嬢でミツヒデの相棒
そして何より美人!
オビは第二王子付き伝令役……であってるかな?
で、お酒と辛いものが好き
リュウのことをリュウ坊って読んでて、巳早から猫って言われてる。巳早のことは…確か襟巻き山猿って言ってたかな?
一応要約してみたんだけど……』
なんだか急に視線が鋭くなってる気が……
「お前、一体何者だ!何処から来てどこでそんな情報を仕入れた!出身国を言え!!」
……生まれて初めて鞘のない剣を突きつけられてます
まあ、切るわけないってわかってるだけマシだよね
私はすっと剣先を軽く握った
いたた…流石に刃物は痛い……
よいこはマネしないでね
『私はあなたたちの敵じゃない
でも、出身国はわからないと思う……』
「お前っ、俺を誰だと……」
『第二王子でしょ?』
「さっき言い当てられたの忘れたのか……」
なんて言いながら頭に手を当て呻くミツヒデ
『日本だよ』
「ニホン?そんな国はない」
『あるんだけどなー……ま、いっか
そんなに気になるなら牢屋に入れるなりここで切るなりなんなりしていいよ?
森の小人じゃあるまいし、簡単には信用できないでしょ』
私は軽く首筋に刃を当てる
ツゥっと一筋の赤い血が出てきた
「おまえ、本気で言っているのか?」
『え?うん
牢屋からでも外の景色が見えるならなお嬉しいかな
こんな素敵な世界を五感で味わえるなんてこの上ない幸せだね』
そんなことを言う私を不思議そうに見るみんな
あの世界は汚くて地球も悲鳴をあげてて、そんな世界から逃げれたのならばここでどんな生き方をしてもいい
本当に心からそう思えるんだ
To be continue……