赤髪の白雪姫

□第2話
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「だから!
私の家出の理由なんてゼンが知っても面白くないって言ってるんだよ」

「だ・か・らー
教えてくれないのが面白くないって言ってるんだよ白雪」


言いたくない白雪と、聞きたいゼンとの舌戦が繰り広げられている


「そんなに邪険にしないでも
ほら、こうして包帯を巻き合う仲だろう」

ははは、おそろい?と右腕を出すゼン

「……………」

「笑えよおい」


いやいや
白雪からしたら、おかしな人だからね?あなた


「木々さん、ミツヒデさん!あ、朝子さんも
少し散歩に行ってきますね」

「りょーかい」

「気をつけて」

『はいはーい』



───────




サク、サク、サク


「──で、なんでついて来るの。ゼン」

「怪我した娘を一人で森に出すなんて紳士の名折れだからな
こんな嫌がらせを受けてもな」

なんて言って解けかけの包帯を示すゼン


あなたはいつから紳士なんて仰々しいものになったんでしょうか


「ハー……
私は薬草の勉強で山と森に慣れてるから平気だよ」

「ふーん」

「それに、街中とは違う時間や空気の流れがあって居心地いいしね」

「ああ、それわかる」

穏やかな顔をするゼン


「今のは素直だね」


白雪が微笑み、サァッと風が吹く


「痛っ!?」

ビックゥ!


どれどれとゼンが見に行くと


「あー、髪が木に引っかかったのか
なんかおい、一束だけ長い髪があるぞ」

「え?
あ、家出るとき切り損ねたんだきっと
ごめんゼン。切っちゃってくれないかな?
……とれない」

「は?」

その時、ニヤリとゼンが笑った


「いやいや!女の髪を切るなんて俺にはとても!」

「はい?」

いきなり変わったゼンに不審がる白雪


「長い髪を捨てたのは家を出たのと何か関係が?
わけを聞かせて貰えれば手助けも出来るんだが……」

「……あなたって人は…」



「金持ちの息子に愛妾になるように言われたァ!!?」

バササッ!!


ゼンの大きな声に驚いた鳥たちが羽ばたいていった


ごめんなさい鳥さん

うちの王子が御迷惑をおかけしました



「色町で言葉を覚え、金貨を食べて育ったと有名なご子息でね」

「…………(絶句」

そんな比喩表現が使われる人、ほんとにいたんだ


「赤い髪を珍しがって側に置いておきたくなったって話だよ

あっちからすれば、果物屋で林檎を買うようなものだったんじゃないかな」


「白…」
「─だから
カケラで見飽きてくださいって思って、束ねてた髪を置いてきたんだよ」


「………プーッ!
そりゃあいい!ハハハハハハ!」

「あはは
笑い事じゃないんだけどな」


手を叩いて可笑しそうに笑うゼン

うん。笑い事じゃないよ


「いやいや、いい判断だ
よくその下種から切り離した」

「?」


赤ってのは運命の色のことを言うんだろ

今は厄介なだけでも、案外いいものに繋がってるかもしれないぞ」


「……す、すごい考え方をするんだね」

「おや?尊敬?」


──────



「白雪はやっぱり怪しい人じゃなさそうだなぁ、木々?」

「それどころか、ゼンは相当気に入ってるね」

『逆に、捕まっちゃって災難かなー?
白雪のほうは』

ヒョイっと木の上から顔を出して会話に混じった


「朝子!?いつのまにいたんだよ!」

「『ずっといた』」

「木々も気づいてたのかよ!」



───────



ゼンと白雪が空き家に着いた時


「タンバルンから届け物だよ!」

その少年は“はい、重いからね”と言って差し出した


「タンバルン〜〜〜?
なんだってまたそんな隣の国からこんなとこに……」

バサッ

「え?」


持っていた本を落とした白雪に、不思議に思ったゼンが声を掛けた


「白雪?」

「それ…私が切っておいた髪を束ねておいたリボンと同じ…」

「は!?」

「籠の中、見てもいいかな」

「あ?ああ」

「──林檎…」


かけてあった布をそっと外すと、そこには真っ赤な林檎があった





────────




「─つまり、これの送り主は家出をして遠出している白雪の身を案じてタンバルン国境手前の街まで迎に来ている、と……」


手紙を読んだゼンはつぶやいた


「随分と執念深い紳士のようだな?」

「アハハ、うまいこと言うね」

「何を笑っている!」

キッと剣先を突きつけて白雪に大声をあげる


「国境を越えて逃げるくらいの大事だったのか!?」

「……相手が、相手だったもので」

「………………」


誰だったんだとでも言いたげな目線を返すゼン

その瞳に、言うしかないと観念して白雪は口を開いた


「──…タンバルンの…第一王子だったんで……」

「! ラジとかいうバカ王子か!」


ダンッとテーブルを叩くも怪我をしている腕に響き、声にならない声をあげる


「さすが…隣国にまでも届く悪名…」

「相手が相手、ね…
まあ、国境通過の記録から何から調べさせたんだろうな」


ただ珍しい髪色というだけでここまで権力を振りかざすなんて……

うちのオテンバ王子ですらこんな手のつけようがないことはしないよ……


「一度欲しいと思ったものは自分の所有物に数えるんだろ」


白雪はずっと視線を落としたままだ


「………籠に入れるくらいわけないか」

「え……」


白雪は一つの林檎を手に取った


「痛み始めてる……
もうこの赤もダメかな……」

………なんちゃって と言って照れたように苦笑いする白雪



ガタッ

コツ…コツ…コツ…


「ゼン?」

彼は白雪の林檎を持つ手を掴むと、自分の口元に持っていってカブリついた


「ゼ…」
「行儀悪いなー。ダメだろ ゼン
自分で取らないと」

「!!!」

その言葉にゴフッとむせるオウジサマ


ゼンの知らない間に、階段にミツヒデと木々がいた


「な…何見て…
呼んでないだろ!引っ込んでろ!!」

「うわっ!
なんだよ、傷つくなー」

「いいからお前は黙ってろ!」 「うわー」



ガタッ


「ゼン」

「なんだ!!」


…そんな不機嫌そうに振り向かなくても


「……馬鹿なこと言った。ごめん」

「……………!?」


その時、ゼンの体がふらついた



「……白雪
その林檎…お前は食うな」

「え?」

「木々、ミツヒデ、朝子悪い
怒るな、よ……」

「ゼン?」


バタッ


「ゼン!」

「ゼン どうしたおい!!ゼン!!!」


私はさっと林檎を取り口に含んだ


『これ…毒林檎だ』

「!?」


ガチャ


「誰だ!!」

「──遣いの者です
おやまあ、口にされたのは白雪どのではなかったか」


遣い…まさか、タンバルンの?


「うーん……まぁいいか?」

「──…あなた…この前うちへ来た……
どういうこと…?」


「その方が食べたのは毒林檎です
その解毒剤はある方がもっておられます

───ご同行願えますね?」




そうして、白雪は連れていかれた



ザアァ…

物語のページをめくる、風が吹く音がした



To be continue……

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