その他短編

□鬼ごっこ
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俺は、大将と鬼ごっこをするのが好きだ。
あの小さな足でのろのろ逃げ惑う大将を見ていると、なんだか心がざわついて
もっと追い詰めたい。もっと困らせたい。もっと、もっと、なんて思ってしまう。
だが、そんなことが大将に知られたら大将と鬼ごっこができなくなって本末転倒だから、あえて行動には表さない。
いつも欲が出るギリギリまで楽しんで終わりだ。
そんな俺の気も知らずに、運動が苦手なくせに俺や兄弟達が大将のことを
遊びに誘うと、いつも少し心配げに笑いながら、つっぱねることもせずに遊びに混ざる。
もちろん、今日も同じだ。

「薬研、くん、他にも逃げてる子沢山いるんだから少しはそっち追いかけてよー!」

 大将が走りながら喚く。
俺が本気を出して走れば、大将を捕まえるなんざ朝飯前だが、まだ足りない。
もっと、大将が疲れ切って座り込むまでは一定の距離を保って走り続ける。

 しばらくすると、急に大将が走る速度を上げるもんだから
いったい何事かと思ったら、急に物陰に隠れたので大体の察しはついた。
大方、撒くつもりだったのだろう。思わず馬鹿だなぁ、と呟く。
あんな遅い足であんな狭い場所に逃げ込むなんて、自分で自分の首を絞めているようなものなのにな。
そんな簡単なことにすら気付けない程に大将は追い詰められているんだ。他の誰でもない、この俺に。
そう思うと更に気分が高揚して、自然と息が荒くなる。
そろそろ頃合いだろう。

「そんなところにかくれちゃあ駄目だぜ、大将。捕まえてくれって言ってるようなモンじゃねぇか。」

まさか見付かるとは予想していなかったのだろう、肩を微かに上下させたまま大きく目を見開いていた。

「ま、待って、タンマ。」

座りながら後退りしている大将の服と手には土がみるみるうちに付いていく。
そんなことにはお構いなしに大将を捕まえようとする俺に、待ったの言葉を
何度も投げ掛ける大将の姿は滑稽で、可愛らしかった。

「待ったは無しだぜ、大将。」

そう言いながら俺が近寄ると、とうとう大将は観念したかのように目をぎゅっと瞑った。そして、

「さあ、そろそろ戻らねぇと燭台切の旦那たちが心配するぜ。」

鬼ごっこは終わった。
大将は安心したように目をゆっくりと開けると、疲れた、とこぼした。
だが、存外悪くないだろ、と返すと、

「うん。走るのは苦手だけど、薬研くんと遊ぶのは好きだよ。」

だから、また遊ぼうね、と言ってきた。
少し恥じらう様に言っている姿も見ていて面白い。

 だが、あんなに疲れたあとにその反応ってことは、もう少し欲を出しても良いってことなのか?
なあ、大将。

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