Bloody Eclipse


□第31話 ネガイゴト
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「おいで、皆」

大人達が酔いつぶれて寝静まった夜。

「?どこに、いくの………?」

「素敵なとこだよ。アズアズ。」

そう言って、姉さんは笑ってみせる。

そして着いた場所。

「わあっ!すごいねルキくん」

コウのその言葉に目を上に向ければそこは満天の星空。

「ああ…綺麗だな」

俺も、穏やかに笑んだ。




姉さんが連れてきたのは、施設からそう遠くない森にある丘。

吸血鬼がいると恐れられ人気がない所だったが、そんな場所でも誰も構わなかった。

それどころかいつからか俺達はその日彼女と過ごすためだけに昼間耐えていたようなものだった。

その時間が密かな幸せだったんだ。

そして彼女は連れ出すと必ず言った。



「この時間だけは自由な時間」



そう言って連れ出した子供たちと空を見上げるように寝転ぶ。



俺達の、俺達だけの、自由な時間。

これは苦しみの中の、たった一つの幸せだと俺達は思っていた。












しばらく空を見上げてふと、姉さんが話し始める。

「空には皆を幸せにする力があるんだよ」

幼い頃に聞いた話だという。

「へえ、やっぱ姉ちゃんは物知りだな!」

姉さんの隣に寝転ぶユーマがにかりと歯を見せる。

「まだ続きがあるよ。青空には星空よりもっと皆を幸せにしてくれるんだ、っていうね」

何気ないお伽話だ、と言っていたけど。

そう言って空を見つめていた。

「じゃあ、ここから逃げたら見に行こうよ!」

「そう、だね…ルキと、コウと、ユーマと、お姉ちゃん、皆で…見たいな…」







刹那、


ざっ、と木が揺れる。







『……哀れな人間よ』






「しっ!こっち寄って!」

とっさに姉さんは俺達4人を庇うようにして隠れた。

人の気配。

すぐそこまで来ている。





だが、そのままその人は去っていった。




「危なかった…ユマ大丈夫?」

「おうよ!」

「ルキちゃんもコウちゃんもアズアズも大丈夫?」

「ああ。」

「僕も大丈夫だよー!」

「俺も…」

頷きはしたが、

「…そういう姉さんは大丈夫なのか?」

彼女の顔を見ればそう声を掛ける以外無い。

「うん…?私は大丈夫だよ」

そう言って笑おうとしたがやっと姉さんは気付いたようだった。

「っ…なんで、涙…?」

気付いたは良いものの、その理由が何か分からないと顔に書いてあった。

「もしかして俺を庇ったときにどっかぶつけたか!?」

「痛い…?大丈夫…?」

弟たちはそう心配するが。

「ううん、心配させちゃったね…大丈夫。ありがと」

姉さんも涙を拭い、また笑ったが。

「…」

涙の理由を、俺はそんなものではないと知っているから。

「ルキちゃん…?」

だから俺は何も言わず、姉さんに寄り添った。


 

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