Bloody Eclipse
□第40話 首を捻る
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そうして乗り込んだ、孤児院。
彼女が育った、地獄の場所。
今、彼女の目の前にいるのはかなり上質な生地で作られた軍服を着たユーマくらいの大男。
メタボリックな身体に荒んだ目。
人間の中でもコイツは──そう、汚物そのものだ。
そう言っていいくらい、下級魔族に近いものを感じる。
「はっ、いい加減何度無駄だと言えば理解する?俺に楯突いた罰だ」
「っ…!……うっ…んぐっ…ああっ……」
鞭で叩く、酷い音が響く。
「いいか、お前はただ泣き悦べばいいんだ。分かっているだろうが手当てなどする必要もない。」
そう言ってその汚い目でギロリと睨まれる。
「ですが…っ!あの子たちは致命傷を負って──」
与えられる痛みに顔を歪めながら、それでもなお屈しない。
「これでもまだ主人に楯突こうなど良い度胸じゃないか、なあ?
──奴隷の分際で」
奴隷、ね…
アンタほんとに気が強いねえ。
出かけた反抗心を抑えながらも、目の色は変わらない。
ああ…あの頃――始祖にいたぶられていた頃のアタシそっくりで、今すぐその男の無いに等しい首をへし折ってしまいたい。
アンタをこんな目に遭わせるコイツを許したくない。叩きのめしたい。
だけど実体はここにないから、思い通りに身体は動かなくて。
「…っすみません、ご主人様…」
そんな事もつゆ知らず、彼女は真っ向勝負は無理だと諦めたのか、このクソな人間に謝った。
内心とは裏腹に。
「はあ…普通なら首をはねているところだ。感謝しろ」
「無礼なことをすみませんでした…ありがとうございます。」
「それでこそ私の奴隷だ。さあ、俺を悦ばせろ。お前のカラダで」
「…はい、ご主人様…っん…あ」
そんな心も知らず天狗になっているこの男は、人間の中でも更に馬鹿の部類だとアタシが保証しよう。
アンタならその願い、叶えられるはずだと、理由もなく思うことしかできないけれど。
暫く汚い奴の気の済むまで相手して、やっと解放された女は、隠れていた男の子を見つけて叱ることもないまま力なく笑んだ。
「ルキちゃん…嫌なものを見せちゃったね、戻ろっか。皆待ってるよ」
ルキちゃん。
この子がアレンが言ってた少年か。
貴族の出身、ふわふわの黒髪、シャープな垂れ目。
合致してしまった。
この子は人間の頃の“無神ルキ”だ。
間違えるなんて、できない。
「何故そこまで必死なんだ?」
ふと、零れた小声を彼女もアタシも聞き逃さなかった。
どうしてか、始祖からユイと弟たちを庇ったアタシに対しての投げかけにも思えた。
「ん?…ああ、私にとって皆が大切だから、かな。
…ううん、偽善なのかもしれないけど…私と同じ思いをさせたくないんだと思うなあ…」
彼女はそう言うけど、アタシはなんであんなに必死に守ろうとしたんだろう?
魔族らしくない自身の行動に、またも首を捻るしかなかった。