Bloody Eclipse
□第30話 信じても、
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教官室から声がする。
そっと見ればあの女。
「はっ、いい加減何度無駄だと言えば理解する?俺に楯突いた罰だ」
「っ…!……うっ…んぐっ…ああっ……」
鞭で叩く、酷い音が響く。
「いいか、お前はただ泣き悦べばいいんだ。分かっているだろうが手当てなどする必要もない。」
咄嗟に隠れてしまった。
何故だろう、今去ってはいけないと本能的に感じたんだ。
「ですが…っ!あの子たちは致命傷を負って──」
「これでもまだ主人に楯突こうなど良い度胸じゃないか、なあ?
──奴隷の分際で」
「…っすみません、ご主人様…」
「はあ…普通なら首をはねているところだ。感謝しろ」
「ご無礼なことをすみませんでした…ありがとうございます」
「それでこそ私の奴隷だ。さあ、俺を悦ばせろ。お前のカラダで」
「…はい、ご主人様…っん…あ」
それから暫くして教官室から出て来た女は俺を見つけて叱ることもないまま力なく笑んだ。
「ルキちゃん…嫌なものを見せちゃったね、戻ろっか。皆待ってるよ」
何度痛めつけられても心の中では抗う女。
勝てないと知っていながら取り入るふりをしてまで立ち向かう女。
何故だ。
「子供たちに関わるな」と、そんな風に言われ、陵辱されても何故尚戦い続けるんだ?
望んでいたとしても誰も頼んでいないというのに。
教官の仕置きの鞭で足を痛めたというのにそれを隠しながら俺の手を引く。
何故なんだ?
「何故そこまで必死なんだ?」
気付けば口が開いていた。
「ん?ああ、私にとって皆が大切だから、かな。…ううん、偽善なのかもしれないけど…私と同じ思いをさせたくないんだと思うなあ…」
今の話はルキちゃんと私の秘密。
そう言うと俺の手を離し、傷だらけの孤児たちの手当てを始めた。
「あいつだけは…信じてもいいのだろうか」
そんな風に思わせる何かがあった。