Bloody Eclipse


□第23話 初めて話した日
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少し時が過ぎて、春の暖かさがふわりと漂うようになった頃。

「そういえば、あの子、どうしてるかな?」

そんな風にふと思った矢先。

花壇に倒れている少女を見つけた。

「ねえっ、大丈夫!?」

返事がない。

傷だらけで、骨もかなり折っていたし、出血も酷かった。

「レイジ!!大変だよ!!」

彼女を抱え、急いで弟の元に行く。

「シュウっ!貴方どこに行っていたのですか!

っ…彼女、どうしたのです!?」

レイジもぐったりした彼女を見て多少は焦っただろう。

「倒れてたんだ!どうしよう!」

「騒がないでください!そもそも彼女はヴァンパイアなのですよ!!」

それでもレイジは小声で俺を制し、冷静な判断を下した。

「あ、そっか…よかったぁ…」

おかげでって俺が言うのはおかしいだろうが、あの時はレイジがいて助かったんだ。

「とはいえ、この傷…とりあえずベッドに運びましょう」




それから少し経ち、

少女が魔族だと思い出して安心はしたが、暫くしても目覚めない彼女に俺は気が気でなかった。

「ねえ、レイジ。魘されてるけど大丈夫なのかな…」

「痛みが引かないだけでしょう、じきに落ち着くはずです」

「うっ………ん…」

ゆっくりと目を開けた少女。

「大丈夫?」

声をかければ彼女は不安そうに瞳を揺らした。

「まったく穀潰しは…彼女は眠っていただけだというのに大袈裟ですよ。」

そんな風に言うけれど、レイジは毎日毎日薬を作っていたのを俺は知っている。

きょろきょろと辺りを見回し、布団を眺めて小さく首を捻る。

「…?アタシは…」

彼女は自分の状況がまだ飲み込めていないようで、少し混乱気味だった。

「君は1週間目を覚まさなかったんだよ。頭蓋骨割れてたんだからまだ起き上がれないと思う…。あっ、僕は逆巻シュウ。こっちが…」

「逆巻レイジ、貴女の義弟です。何かあれば何なりと」

「義弟…?」

「うん、僕たちの母はベアトリクスだから。」

俺たちは姉であること以外名前すら知らないままだったが、彼女に至っては俺たちの存在すら知らないようだった。

「あっ!そうだ、レイジと林檎剥いたんだ。食べる?」

「殆ど私が剥きましたけどね。どうぞ。」

「うん。シュウちゃん、レイちゃん、ありがと。」

シュウちゃん。

レイちゃん。

そう言って笑った顔は今でもよく覚えている。

何の陰りもない、眩しい笑顔。

ただただ、あの笑顔が嬉しくて仕方なかった。

 

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