禁断の果実ができるまで
□第41話 指輪の行方
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「兄さん」
ソファに座る兄に声をかければ片目だけ開けて応えられた。
「…シン」
「姉さんに…本当に伝えなくていいの?」
「何をだ」
溜息をついて座り直す兄。
「分かってるでしょ、兄さん。“兄上”のことだよ」
「…話してどうする」
「あんなに幸せだった姉さんが無表情になって…仕方ないって思ってずっと見てたけど…可哀想になってくるんだ。思い出したそうだから」
兄さんは姉さんが『愛を知らない』と言うけど、本当は…
「…だが同時にまた……分かるだろう?それこそ辛い事実がアルマを――姉上を襲う。」
「けどっ!むぐ…」
「…来た」
とっさに手で口を塞がれた。
そこにひょいと顔を出した姉さんは酷く虚ろげだ。
…いつものように。
「ね、シン、カルラ。わたくしの大事な指輪が何処にあるか知っているかしら。」
「っ姉さん…」
「赤い宝石がついた、薔薇の模様が入った指輪よ。大切にしていたはずなのだけど見つからないの」
それはもう、存在しない指輪。
あの時抜け落ちて消えたもの。
「ああ、ごめん。オレも兄さんも知らないんだ。そのうちすぐ出てくるさ、姉さん」
だけど、本当に言っていいかなんて分からない。
ごめん、姉さん。
嘘ついたってどうしようも無いのに、嘘ついて。