禁断の果実ができるまで
□第40話 知らない
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「やあっ!」
「くっ…恐れ入った。」
「アルマ」
「父様っ!おいでになられていたのですね!」
稽古場に現れた人影に走って向かう。
「おお、軍曹殿。久しいな。」
後ろから先程まで稽古の相手をしていた老成のある大男が歩み寄る。
「ああ、元気にしていたか?師範。端から見ていたが君は本当に衰えるどころか強くなっていくな。羨ましい」
にやりと笑う二人に固い絆が見える。
「何を言う、軍曹殿。君には勝てんよ。なんたって君は王が直々に引き抜いた、騎士団きっての軍曹なのだから。それに、私は教え子に抜かれてしまった…なあ?アルマ」
「でも師範はお強いですわ。本日の試合はまぐれも良いところですもの。」
「最後の一振りは間違いなく一流の腕だったぞ。軍曹殿は素晴らしい御娘を授かったものだ。流石始祖屈指の将軍家に嫁ぎになる者だ」
「ありがとうございます、師範!」
ぽんと頭を撫でた大男は嬉しげだった。
「さあ、帰るとしよう、アルマ。母様が待っているぞ」
「はい!それでは失礼いたします、師範!」
「おお、お疲れさん」
「母様!ただいま戻りましたわ!」
「アルマ、また貴女は稽古をしていたのね…」
「いいじゃないか。アルマは腕の立つ良い嫁になる…生かさなくては宝の持ち腐れだろう?」
「旦那様はいつもそればかり…折角の娘なんですから…」
「ああ、そういえばお前の親族…いや、お妃様がお呼びしている。アルマ、準備しろ。婚約者の――様も来ているらしいからな。」
「本当ですか!嬉しいですわ!」
「それならおめかししなければなりませんね。さ、着飾りましょう、可愛いわたくしのアルマ。」
「ギース様、クローネ様。お招きありがとうございます。」
「違うでしょう?堅苦しいわ。長い間共に育った仲の貴女までそんなでは息が詰まってしまうわよ」
「すみません、クローネ様。」
「仕方ない、貴女のことだ。軍曹には勿体ないくらいの、クローネのはとこだからな」
「ふふ…そうね」
「やはり彼女を軍曹に嫁がせたのはいい判断だったな、クローネ」
「ええ。アルマさんも可愛らしく逞しい女性になられて、感無量ですわ。結婚式が楽しみね、ギース」
「ああ。」
始祖王と妃は仲良く笑った。
―――――――――――……
「…また、夢……」
最近、夢をよく見る。
幸せに笑う始祖。
愛されて育ったわたくし。
「…愛され、て……?」
おかしい。
わたくしには愛された記憶などない。
確かにわたくしは父や母、王に妃を愛していた。
けれども、わたくしが愛された記憶は存在しない。
「どういうことなのかしら…」
あんなに楽しげなわたくしをわたくしは知らない。
「…考えても無駄ね」
その言葉でわたくしは見た夢の話などどうでもいいと思った。
…相変わらず気は晴れないけれど。