禁断の果実ができるまで
□第23話 賭け
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………
『久し振りだな、シュリー』
「…っ」
あたりに響く低い声。
“彼”、父様のご友人。
「…ソクラテス………」
優しくて、賢い、かつてのアタシの先生。
『君と再び会えて嬉しく思う。』
声色が少し弾んでいるように聞こえる。
「アタシも嬉しーよ。でも最後に会ったときソクラテスまだ生きてたじゃん」
『そうか…もうそんなにも月日が流れたのか』
「そうだよ。5歳だったシュリーちゃんは21歳になったんだよ?」
永い永い時が経ったことを実感する。
『…立派なものだな。もう成人しているとは』
「酷いなあ…不死身でも歳はとっちゃうんだから止めてよ。」
冗談紛れにくすりと笑う。
『…懐かしいな、あの頃が。
ギースとカールと話をしていると必ず『失楽園』を持ってやって来る君をカールが幸せそうに撫でていたのが。』
『だが、それがすでに起きるべきものではなかった。』
ソクラテスは下がり気味にぽつりと呟いた。
「起きるべきではなかった…?」
『そうだ…ここはひとつ、賭けをしないか。』
「賭け…?」
『そうだ。君の中に流れる始祖の血とヴァンパイアの血、どちらが幸せを作り上げるか、賭けてみないか』
そう言うと彼も去っていった。
「…」
しん、と静まり返った刻の間。
気味が悪くてアタシまでそそくさと後にした。
幸せを作り上げる、だって?
アタシの汚れきった血が?
馬鹿なこと言わないでよ。
「幸せなんて、何処にもないのに…」