禁断の果実ができるまで


□第34話 隠れた月
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塔から出てきて空を見上げた。

「なんで、クリスタは…」

いつもなら窓から覗くはずなのに、

「ルキも、コウも、ユーマも、アズサも…」

月がいない。

「っ考え事してる場合じゃない…」

何処にもいない。

「マズい……」

魔界の夜は一層暗いから。

「っぐっ…はあ…吸血、衝動が……」

喉が張り付きそうなくらい渇く。

「クソッ………っは…んくっ…んっ…ん…んん…………」

思い切り腕にかぶりつく。

「はあ、はあ…」

何でなんだ。

「何で満月や月蝕は力が湧き上がるってのにっ……新月は吸血衝動が…っ強くなるんだよ……………っ!」

「おかげでアタシ自身のマッズイ血をすすんなきゃなんないなんて…っく…またっ…!」

人間の血だって不味いのにましてやヴァンパイアの血を啜るなんて死んでも嫌だ。

「せめて…っ、血が美味いと思うか、そもそも…吸血衝動がないならいいのにっ!!」

どれもこれもアイツの所為。

今尚アタシを生かし続けるアタシの所為。

この躰の所為。

「んくっ……はっ…んんん………ん……っげほっ!!ぐっ…げほっげほっ!!!」

「ハハ…吐血したみたいに真っ赤だ……」

不味くて吐き出した血で染まった自身の掌。

穢れた血だってのにこの赤黒い美しさには勝てない。

「曲がりなりにもアタシはヴァンパイアってことか…」

始祖の血に混ざったヴァンパイアの血。

血を欲するヴァンパイアの本能。

「はあ……いつ飲んでも血ってマッズイなあ…」

その上ヴァンパイアの血に毒されたアタシの始祖の血は飲めたもんじゃない。

「……フフ…ハハ…ハハハ…」

自嘲的な笑いがこみ上げていく。




新月に思い知らされるアタシの運命。

幸せなんか来ない運命。

罪深い運命。




だから、アタシは引き摺ってる?

わかってる。

ルキがあんな始祖の野郎なわけがないことくらい。

わかってるから…認めさせてよ。

アタシにアイツらを、認めさせてよ…。

そしてアイツらを消させてよ…







――もう二度と世迷い言を言わせないために


 

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