禁断の果実ができるまで


□第25話 その頃
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「…消えた、だと?」

「そうなんだよ、兄さん。シュリーの奴…万魔殿のどこにも居ないんだ」

先程寝室に寝かせた奴の様子を見に行かせたシンが戻ってくればこの状況だ。

「何故だ」

出られるはずがない万魔殿から、跡形もなくシュリーが消えただと…?

「思念を追っても…駄目。あの子、まだ意識失ったままだったもの。分かっていることはただ一つ。」

首を小さく振ったアルマは溜息を漏らした。

「そうだね。…カールハインツの仕業ってことだけ。どうする?兄さん、姉さん」

言わずともシンも分かっているだろうが答えてやる。

「…ここから出られない以上何も出来ん。奴が殺されても仕方あるまい」

「そうね。…生きててくれたら多少復讐しやすくなるだけだもの」

そんな言い方をする彼女を久々に見た。先の戦争以来だろうか。

「いいのか?貴様が随分と可愛がっている奴なのだろう?」

奴には甘いというのは見せかけ、か。

「勿論、わたくしはあの子を愛しているわ。でも、それだけよ」

「ふっ…貴様、やはり奴を怨んでいるな」

所詮愛を知らないアルマが奴を愛すことなど出来ない。

そこには言葉しか、無い。

「いいえ、あの子があまりにもコーデリアと父様に似ているのが辛いだけよ。」

「…言い訳は止せ。耳障りだ」

「酷いわねカルラ。本音よ、これは。」

尚も否定するアルマ。

だが所詮奴も信じていない。



「愛とは、哀れだな」

 

呟きが完全に静寂に飲み込まれるのを見届けると、私は立ち上がった。

「…仕方ない。使い魔にもう一度調べさせろ。万魔殿、すべてをくまなく、な」

「了解、っと。

…オマエら命令は聞いただろ、ほら、探せ!」

シンは使い魔を放し、自身も探すためにリビングを出た。

「…宝物庫に行くぞ、アルマ」

「何しに行くのよ。あそこはエンデツァイトの流行―――あれから誰も近づいて無いじゃない」

「我が母の妹、メーネの代物を探す。思念を追えば万魔殿にかけられた魔術が解けるはずだからな」

袖で隠したシュリーの手に填められた石の指輪が本物ならば間違いない。

あれは、私の母の妹、メーネのもの。

「カールハインツはまだ色々とやっている、っていうことなのね…はあ、厄介だわ」

「だが…見つけさえすれば、いわばチェックメイトだ」

ここにシュリーが連れて来られ、またここから出したのは…カールハインツの罠だったのだとしたら。

必ずそこに穴もある。

またとない機会。









運命は始祖に味方している。


 

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