禁断の果実ができるまで
□第26話 まだ無垢な君
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『ライトちゃん』
約束の時間きっかり。
目を閉じて声をかける。
『あっ、シュリーちゃん!』
魔族は同種族とテレパシーで意思疎通を図る。
その中で稀に違う種族同士でもテレパシーが使える奴がいるのだ。
まあアタシは混血種なのもあるんだろうけど。
『元気?平和になったかなあ?』
あの人がいなくなって平和にならないほうがおかしいか。
『んー、ほんと快適だよ♪でもぉ、なんか砂を噛みしめるような虚しさっていうのー?ちょっと寂しいかなあ』
わざとらしいくらい語尾を下げるライト。
『そっかあ。虚しさねえ…幸せを知ってる証拠だねぇ』
『でしょー?ライトくんはいつでも幸せだよ♪』
『んふふ、楽しそーだねえ』
でも君は本当に幸せな訳じゃない。
まだ知らないから幸せだといえるんだ。
『…ねえ、シュリーちゃん』
『んー?』
『君は誰なの?』
『うーん…アタシはアタシだよ?』
『違う違う!シュリーちゃんの正体』
『あの人に似ていてー、僕みたいな喋り方でー、僕たちをよーく知ってる。誰なの?』
『んふ…さあ?誰だと思う?』
『んん…あの人の隠し子とか?』
こいつは鋭い。
『さあねえ』
けど、種明かしは直接会ってから。
その方がいいに決まってる。
『…そもそもシュリーちゃんはヴァンパイアなの?』
相手の種族は他種族とテレパシー出来る奴ほど分からない。
でもライトには身近に兄弟がいる。
『まあね』
きっと分かってて聞いてる。
『でも、アヤトくんとカナトくんは繋がったけどうまく波長が合わなかった。そうでしょ』
ほらね。
『せいかーい!でもアタシはヴァンパイア♪』
その血を持っているだけだけど。
『あ、やばいレイジだー!またね、シュリーちゃん♪』
また説教かなんかで追いかけられてるんだろう。慌てた様子で遠ざかる。
『はいはーい』
「ふう…疲れたあ」
テレパシーは魔力と体力を消費する。
だからライトたちのような下界住みの魔族のほとんどは“ケータイ”なるものを使って連絡しているらしい。
「レイジ、か……」
懐かしい名前。
いつもアタシを心配してくれた2人と、一緒にいても苦痛じゃなかったアタシ。
でもきっと今は臭いで近付けない。
万魔殿を出たら会いに行こうと思ってたけど、今度はエデンに閉じこめられたし、臭いにそれほど敏感になってしまっている。
「すべては、必然…」
カールハインツの言葉がよぎった。