禁断の果実ができるまで


□第14話 愛しい母様、記憶
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「母様!」

一枚隔てられたガラスの向こう。

「どうしたの、アルマ」

小さく笑いかける母様。

「この度わたくしは騎士に抜擢されました!」

喜んでほしくて、騎士の証を見せた。

「アルマ、貴女まさか…げほっ…げほ、げほっ…」

「母様!大丈夫ですか!」

咳き込む母様に駆け寄りたくても叶わない一枚のガラス。

「げほげほっ…大丈夫じゃないわよ…我が子が戦争に行くなんて…」

隔てられた向こう側の冷たい石の雰囲気が伝わってくる。

「母様…大丈夫です、わたくしは戦争には行きませんわ。お身体の弱い母様を一人にはできませんもの」

安心させたい。わたくしの愛しい母様を。

「ありがとう。」

だが力なく微笑んだ顔には絶望の光が宿っていた。

「げほっ…でも、もう少し女の子らしい習い事をさせてあげたかったわね…貴女が逞しくなる程そう思うわ。」

「わたくしは母様を守りたいんです。だから、逞しくなっても、それでも構いません。母様が守れるのなら…」

「優しい子ね。アルマ、可愛い我が子…げほっげほっ……かはっ!」

「母様!!」

嗚呼この窓ガラスを割ってしまいたい。

「旦那様…逢いたい…」

いつもこうだ。

母様は辛くなると父様を想う。

あんな人を求めないで。

母様を苦しめるあんな人を想わないで。

わたくしを見て、目の前のわたくしを…

「面会時間が終了する。退出しろ。」

わたくしより2倍くらい大きな守衛が退出を促す。

「…はい」

「母様、また来ますわ。」

必ず…母様を家に連れ戻します。

心の中で呟いた。

不死者の命をむさぼる病だろうが何だろうが、こんな牢屋みたいな隔離施設よりいい。

いっそ、父様も分からない場所まで行ってしまおうか。

そうしたらきっと…母様は幸せになれるから…












「…もう居ないのに」

未だにわたくしはあの日を思い出してしまう。

母様を守りたいと切に願った、あの日を―――

 

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