禁断の果実ができるまで
□第5話 大好きな伯母
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「やっと来てくれたのね。…ふふ、シュリーちゃん、花びらついていますよ。」
ここ、と右肩についたそれを丁寧に取り払ってくれた。
「あ、ほんとだ!ありがと、クリスタ」
「可愛らしい子。貴女がわたくしの姪でよかったわ」
父上の親戚にあたるクリスタはアタシを純粋に可愛がってくれる。
アタシも、薔薇の香りで臭いが消えるから、クリスタと薔薇園でくつろぐのは好きだった。
「聞いて、シュリーちゃん。兄様が今日も素敵だったの」
彼女が淹れてくれた紅茶を味わいながらたわいのない話をする。
「ふふ、クリスタいっつもそれだねぇ。もちろん、父様はすてきなお方だと思うけどね」
アタシも娘として父様を慕っているから、わかる。
「そうでしょう?今度兄様にお会いするときが楽しみだわ」
クリスタは父様に恋している。
今日会いに来てくださっただとか、微笑みかけてくださったとか、そんな些細な話を聞く。
それだけなのに、楽しくて、偽り無い笑顔でいられる。
―――彼女は美しい。
顔かたちだけでも美しいけど、それ以上に心が美しい。
きっとこれ以上美しいヴァンパイアはいないとアタシは思う。
「シュリーちゃん、わたくし、今度結婚するの」
「父様と?」
「ええ。兄様はわたくしを誰より愛しているとおっしゃってくださったのよ」
妻が既に2人いることを考えたら苦しむかもしれない。
「クリスタ…おめでと!」
だけど、アタシがいる。
「ふふ、ありがとう。シュリーちゃん。」
だからおめでとうって言えるんだ。
そう、アタシたちはまだ、白薔薇が枯れるまでそう長くないことは気付いていなかった。
そして、アタシが事実を知ったのはまだ遠く遠くの未来だった。