禁断の果実ができるまで


□第6話 はじまり
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…――哀れな子よ。

元あるべく場所に帰りなさい。

―――……

「…ん…ふあ…よく寝たなぁ…あれ…?」

アタシの部屋の、いつもの焦げ茶色した天井がない。

代わりにベージュの天蓋がついている。

ついでに布団を触ると何だかやはり質感が違う。

状況を理解できないまま起き上がり、辺りを見回す。

窓から外を覗くと遙か先にエデンが見える。

下を見れば薔薇が咲く庭。

「ここは…確か……万魔殿…?」

5歳のとき、父様に連れられて一度来たことがあった。

「え?なんでアタシ…部屋で寝てたのに…」

万魔殿。

始祖の、居城。

嘗ての、父様のご友人の居城。

しかし、つい先日までヴァンパイアと始祖は戦争をしていたはずだ。

シュウたちは知らないが、アタシたちがエデンではなく逆巻城にいたのは戦争から逃げるため――疎開のためなのに。

なぜアタシが敵地である万魔殿に…?

「起きたかね」

「その声…ギースバッハ様…?」

父様の、嘗てのご友人。

始祖王はにやりと口角を上げた。

「そうだ。久し振りだな、カールの娘よ。歳はいくつになったのかね」

「9歳になりました…でもギースバッハ様、なんでアタシ、ここに…」

「あいにく私からは言えぬ。だが、お前は幽閉された我々と共に暮らすことになる。この部屋は好きに使えばよい。」

「え…」

始祖が、幽閉された…?

そんな、馬鹿な。

始祖が、ヴァンパイアによって幽閉されるなどあるのか。

そんな疑問に構わず始祖王は話を続ける。

「それから、お前は今日から逆巻を名乗るでないぞ。他言無用だ、良いな?」

「え…」

あっさりと出て行った始祖王の背中を見つめたが返事は返ってこない。

戸惑いを隠すようにしてアタシは再び外へ視線を戻す。

…紅い月が魔界を照らしていた。

 

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