Bloody Eclipse


□第37話 幸せなんて何処にもない
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シュリー、って呼んだ…。

あの黒髪の少女を、

アタシと同じ、名前で…





いやいや、同じ名前の人くらい他にいる事なんて普通にあるでしょ。

でもそれならどうしてアタシはこんなに動揺してるの?

そんなアタシの存在など知らない彼女はメイドに連れてこられた整った女の子らしい淡いピンクのフリルだらけの部屋を暫く睨み、それから傷だらけの身体を隠すように着飾っていく。

「…この服も私たちを売り買いした金で見繕ったものだと思うと…ボロ服の方がマシだ」

そう言って仕方なしに用意された真っ赤なドレスに着替える。

「今夜もまた、見世物か…」

「孤児院出たって、結局は一緒…いっそあそこで死んどきゃよかった」

「お兄様…大丈夫かな」

「馬鹿だよね、『娘』という名の奴隷を、守るべき『妹』だなんて言うなんて、お兄様は…」

あざ笑うかのような口調。

「命令上『お兄様』と呼んでるだけなのに、お兄様を悲しませたくないと思うなんて…」

それは、自身に対してでもあるようで。

「はあ…」

この小さな子の溜息が、アタシの心底まで届くような心地がする。

幸せなんて何処にもない。

信じられるものなんかない。

そんな呟きに、かつてのアタシを連想させる。

ルキ達を弟と認めるまでの、アタシを。

情でも沸いたんだろうか。

何か出来ないかなぁ…

なんて、柄にもなく思ってしまった。

魔族らしくない自身の思考に、これも“イブ”の影響なのかと疑問を浮かべながら。

涙すら出ないほどの地獄を生きる彼女をアタシは見つめる。

そして、彼女の過去を、探った。

再会したばかりだったレイちゃんの思考を読みとったときと同じように、

顔に書かれた彼女のそれまでの人生を、汲み取っていく。



 

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