Bloody Eclipse
□第39話 信念
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過去を見たあとすぐ。
視界がぐにゃりと曲がったと思ったら、さっきとは違う、法律の本が並ぶ部屋に凛々しい青年になったアレンと美しい黒髪の女性になったシュリーがいた。
これではっきりした。
アイツに夢を操作されているのは間違いない。
つまり、アタシの本体は眠っていることになる。
幽体離脱でタイムスリップしているような状態なのだ。
「お兄様」
「シュリー、待たせたね。」
「いえ…それにしても隠れ部屋に呼び出すなんてどうしたの?」
「いや…お前は辛くないのか?性奴隷を偽って内から壊しに行くなど…」
馬鹿だなあ、やっぱ人間って。
「屋敷に来る前から私は汚れてるから…大丈夫だよ。それに、そこで気に入ってもらえば話を聞いてくれるかも知れない」
そんなことしたって、変わるわけ無い。アンタの力じゃ…
「すまないな…シュリー」
「お兄様。私は私の意志で決めたの、顔を上げて」
けど、この気丈さ。
自ら地獄へ舞い戻ってまで変えたい事実なんだと分かるから。
だからアタシは力になりたいのかな。
「っ……一つだけ、頼みを聞いてくれないか。」
「…?」
「孤児達の中にルキという名の子供がいるはずだ。」
「ルキ?」
は、ルキ?
「ああ、そうだ。」
「お兄様の知り合いなの?」
ルキってまさか。
「いや…彼の父と父さんは以前付き合いがあったんだ。話は聞いている。
それでだ。お前の身に何か悪い変化が起きたとき、彼を頼ってくれ」
「え?」
「政策を打ち破る後押し――その鍵が、彼だ。こんな言い方はしたくないが、万一のことが起きてしまったら彼がお前の跡を継ぐに相応しい者になるはずだ。
痛みの両面を知っている彼だから出来ることがあるからね。
それだけは頼んでも、いいかい?」
痛みの両面…虐める側と虐められる側…ルキは確かに知っている。
「わかった、約束するね」
いやいや、まだ無神ルキと確定した訳じゃない。
「お前を助けられないのは本当に申し訳なく思う。殴られても文句はないくらいだ」
「私が自ら選んだこと。謝らないで、お兄様」
何を焦ってるの、アタシ。
「そうか…そうだな。お前に辛い思いをさせてしまう分、必ずこの政策を叩きのめさなければな。
今も力不足ではあるが前よりも強くなっているはずだからね、必ず、叶えてみせるさ」
そういって彼女の頭を彼が撫でたと気づき、アタシは気を取り直した。
そのとき。
激しく五月蝿い足音がこちらに向かってくるのを認識した。
「っ!まずい、密告されたか…!お前は隠れていろ、絶対に出てくるな!!」
彼女を隠し扉の先の別の場所に入れ、食い止めるために入り口へ向かう。
「お兄様!!」
防音の壁に遮られた彼女の声は届かない。
『警察だ。反政府デモを企てたとして現行犯逮捕とする。』
『何かの間違いだろう!』
『間違いなど無い。この書状は絶対だ。従わなければ銃殺しても構わないと言われている』
『馬鹿な、私は――うっ…!』
『君の親友のおかげだ。これで手柄が立てられた』
『せいぜい従わなかった自分をあの世で呪え』
そう言うと警察は高笑いして去っていった。
「お兄様っ…!」
彼女がやっとの思いで彼の元まで行くと、
「…」
冷たくなった死骸しかなかった。
「政策を、叩きのめしてみせるって言ったじゃないっ!私を、孤児を…奴隷たちを救うって言ったじゃないのっ!!」
「お兄様っ、お兄様…っ!返事をして!ねえ、お兄様!!」
「…」
「お兄様…っ」
「……」
「っ…これは、シルクリボン…何か書いてある…?」
「“Blue Skies are our side.(空は味方している)”」
「っ…立ち止まってる場合じゃない…」
そう言い聞かせ、その紅いシルクリボンを胸元に通した。
「お兄様の夢、必ず…
必ず、叶えなきゃ。」