Bloody Eclipse


□第18話 裏切りの罠
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「えっ…!?どういうことなわけ!?スバルくん!」

一刻も早く比較的安全なカールハインツさんのお城――魔界の逆巻城へ向かうというときだった。

「何だよコウ!知るわけねえだろ!チッ…うぜえ…!ぶっ壊してやる!」

私たちを囲むように、狼が牙を剥く。

「ったく…まさかっていうかよりにもよってあいつに嵌められるとはな…」

「つか、このオオカミの数…どうしろってんだよ!」

振り払っても振り払っても襲いかかる狼の群に、

「姉さんが非道なのは分かっていたが…家族をも見捨てるということか、舐められたものだ」

流石のみんなも苦戦していた。

「イブ…とにかく、君は俺たちから、離れないで…」

「でも…っ」

それも、私を守っているから余計に。

そのとき、すっかり聞き慣れていたあの声が聞こえてきた。






「やーっぱり、虫酸が走る」






誰かがしゅっと手をかざせば狼は皆姿を消した。

誰かは、ほかでもない。

「シュリーっ!てめえっ…!」

罠を仕掛けた、シュリーさんだった。

掴みかかったアヤトくんに、怯みも動揺もしない。

ただ、いつもの冷たい瞳が細められただけだった。

「始祖様たち連れてきただけだよ。んな怒らなくていいじゃないの」

カツン、という冷たい足音に呼応して、

「下がれ、シュリー」

この世の果てを思わせるような、色のない低い声が響いた。

「はーいはい。まったく短気なんだから、カルラは」

そう言うとアヤトくんの肩をちょんと押して自分から引き離した。

「ぐっ…!」

「アヤトくん!」

ライトくんが支えたおかげで倒れることはなかったが、その一押しでシュリーさんが相当なダメージを与えたのは誰もが分かることだ。

「アヤトに何をしたんですか…っ!!」

「別に何も?まあ、強いて言えばアタシの混血ゆえの強さにアヤトちゃんが耐えきれなかったんじゃない?…カナトちゃんだって覚えはあるでしょ?」

そう言われてカナトくんは何も言い返せない。

やっぱり、兄弟のはずなのに平気で傷つけるなんて、なんで…

「シュリー!アンタ、いい加減兄さんを気安く呼び捨てするなって言ってんだろ!」

「えー。カルラは呼び捨てダメなんて言って無いじゃん。それに何百年その呼び方だと思ってんの、今更すぎない?」

なのにそんなことはどうでもいいと言わんばかりにシンくんと口論し始めた。

「はあ!?兄さんは本来アンタは直接会うこともできない、れっきとした始祖王なんだけど!舐めてんの!?」

「これだからガキんちょは…シンってばホント兄さん兄さん煩い」

「いい加減にして頂戴、シュリーもシンも。」

はあ…と深い溜息をついて二人を引き離し、私の元へと近付いた人影。



「はじめましてかしら、小森ユイ」



そして紅い雫のピアスを揺らし、シュリーさんそっくりの金色の目で私を捕らえた。

「わたくしは月浪アルマ。シュリーの姉で始祖の王家管轄精鋭部隊隊長補佐なのは知っているのでしょうけど。

貴女をヴァンパイア共から救いに来たのよ」

月浪アルマ。

シュリーさんの、姉。

冷酷無比の、始祖最強女剣士。

その冷たさと強さから『氷の牙』と謳われた、女性。

「っ…!」

射抜くようなその視線に、救いに来たと告げる声。

でも、救いなんかじゃ、ない。

「いいように餌にされてて、よくそんな傷ついたような顔が出来るわね。それから貴方達ゲテモノも餌に上手く扱われていてよく黙っていられるわね」

「っ…」

言い返せない。

どうして、私、そうじゃないと言い返せないの?

「ゲテモノなんて酷くない!?俺、アイドルなんだけど!」

「ていうか〜、誰なの?シュリーちゃんのオ・ネ・エ・サ・マって」

みんな怒っていることは確かだ。

「名乗ったでしょう?月浪アルマ、と」

察した様子ではあるけどアルマさんは平然と、返す。

「ええ、存じております。そうではなく、貴女が一体何者なのか、ですよ。月浪家の生き残りは2人の兄弟と聞いていたものですから。うちの馬鹿が不躾で申し訳ありません」

レイジさんが丁寧に返しても、

「別に…当たり前よ。わたくしもシュリーも、月浪ではないもの」

平然としている。

「姉様は月浪に居場所はあるけどね?んふ」

「口を慎みなさい、シュリー」

「はいはーい」

そして、私に向かって再び口を開いた。

「さ、大人しくしていれば決して悪いようにはしないわ。ユイ、わたくしたちについていらっしゃい。

歓迎してあげるわよ」

その、全身全霊の冷たさで。

 

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