Novel 3

□『天に昇る光の河』
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「リッキー、お前もここがどういう所かもう分かる歳になっただろ?」

「え?」

床の拭き掃除をしている時にここの館主人のターレス様の声が後ろから聞こえた。



ここに来たのは7歳位だから、3年経っている俺の今の歳は10歳位なんだろう。


ハッキリ分からないのは自分が何処の誰で何をしていたのか思い出せないからだ。




ターレス様は俺に諭す様に話を続けた。

「お前には貸しがあるからな。そんな下働きの奉公だけじゃお前の一生をかけても払い切れないだろ?だから手っ取り早く金になる仕事を与えてやる」




俺はこの国(惑星)の海岸の砂浜で血だらけになって倒れていたらしい。

虫の息だった俺をターレス様がこの館に連れて、手当てをして助けてくれたと聞いている。



意識が無かった俺が三日目に目を覚ました時、多分この国のリカー星の者では無いと言われたが、記憶が無く自分の名前すら分からなかった。



ターレス様はそんな俺を追い出す事もせず、名前を付けてくれてこの館に住まわせてくれた。

その代わりに掃除や洗濯をさせられている。

しかしそれが当然の事だと思っているし、何よりも素性のわからない俺に「出て行け」なんて言わないターレス様に一生を捧げようと心に決めていた。




この館には女の人達が住んでいる棟と男の人達が住んでいる棟があり、男の人が住んでいる棟は入り組んだ廊下を随分歩いて小階段を上ったり下ったりする所にあり、俺もまだ数回しか足を踏み入れたことは無い。

俺よりも少し年上の少年達が数人、俺と同じ様な下働きをしているからだ。

俺は女の人達のいる棟の掃除や洗濯をしている。

「ルビーの客がお前を見初めたらしいぞ」

「え?ルビー姐さんの?」



ルビー姐さんはこの館の一番の稼ぎ頭だ。

とても綺麗で優しくて、10歳の俺でも姐さんが色っぽいなんて分かるんだから、大人の男の人には堪らないんだろうなって容易に想像がつく。



「ま、高級官僚なんてのは御稚児趣味っつーのも少なくねぇからな」

「で・・・も・・・ルビー姐さんのお客様なんて・・・・・」



自分に付いている客が他の者と懇ろな関係になるなんて御法度な事だというのは暗黙の了解だ。

しかもルビー姐さんはここのトップ。

俺みたいな年端のいかない子供にお客を取られたなんて分ったらルビー姐さんのプライドが傷付くだろう。


「ははっ、客を取った取られたなんてお前みたいな半人前にもなってねぇ奴が考える事じゃねぇんだよ」

「でもっ!」

「ルビーは馬鹿じゃねぇ。高級官僚の機嫌を取っておけば今後の役に立つって言うのは分かりきった事」

「・・・・・・」

「ルビーがトップ張れるのも、ただ脚を開いているだけじゃねぇからな。こっちにしてみればありがてぇ」





ルビー姐さんのあの綺麗に微笑んでいる笑顔の裏側で、どんな計算や葛藤があるなんて今の俺には分かる筈も無かった。





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