Novel 2
□『 ザーボン様と秘密の部屋 』
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「入れ」
「ラディッツです。失礼します!」
これがフリーザ軍の参謀であるザーボン様の部屋か。
何となく想像とは違くて色が無い。
もっと装飾が施されていて豪華な部屋だと思っていた。
しかし白とシルバーを基調としたシンプルな壁やテーブルや床は、彼の蒼い肌を際立たせ、冷静沈着で冷酷無比な威圧感や圧倒的な存在感を明確にする。
ザーボン様がスイッチを押すと正面の壁いっぱいにモニターが現れた。
映し出されている宇宙空間が神秘的な絵の様で、自分がその中を飛んでいると錯覚した。
「バーダックの息子だな?」
「・・・・・・え?あ、・・・・はい」
「こんな簡単な質問に何故3秒もかかるのだ?答えの前に「え」も「あ」も無い」
「し、失礼しました。バーダックの息子です」
「まぁ、いい。ここへ呼んだのはバーダックの事だ」
「はぁ・・・・・」
何だろう?
親父の息子って言っても、まだ軍に入ったばかりで遠征はまだ無く、訓練や内勤の雑用の使いっパシリで一日が終わる日もある俺と遠征バリバリの親父との接点は無いに等しいのだが・・・。
モニターの真中へ移動し俺に向き直ったザーボン様を見て素直に綺麗だと思った。
でも、こんなに女の人よりも綺麗な顔立ちなのになよなよとして見えないのは・・・
「自分の父親の事はどう思っている?」
「はっ、勇猛果敢で素晴らしい戦士だと思っております」
この俺を見る・・・
「ふっ、素晴らしい・・ね」
「・・・・・」
凍てついた・・・・そう、背景に見える遠い星の様な瞳だからだ。
「その素晴らしい戦士のバーダックのチームの働きは軍にとっても有益だ」
「はっ」
見るものすべてを凍らせるような、冷たい瞳。
多分、この瞳に見つめられたら身体は芯から冷えて縮こまってしまうであろう。
「しかし・・・」
「・・・・・?」
ザーボン様の視線に身体が凍ってしまったように固くなっていくのが分かる。
しかし目は反らせられない・・・反らす事が出来ない。
身体も精神も氷になって固定され、ふとした拍子に砕かれてしまうような感覚だ。
「有益なのもあるが、有害でもある」
「・・・・・」
視線もそうだが、静かな声も・・・・怖い。
狡猾な氷の破片が俺の身体を突き刺すようだ。
「遠征先での戦闘で被害状況が尋常ではない時がままある」
「は・・・・」
下級戦士であるにも関わらず高い戦闘力を持つ親父とそのチームの人達が遠征先でどういう風に星を制圧するなんて話には聞いているがまだまだ未知の事だ。
そんな俺に親父らの事を有益とか有害とかって聞かされてもピンとこない。
「まぁ、お前にこんな事を言ってもまだ解らないとは思う」
「・・・・・」
俺の考えている事が見透かされている様で益々怖くなってしまった。
「惑星自体の制圧も必要だが最先端のカーネルをも破壊してしまうとか有能な人材も殺されるとかいう失態もある。
ポッドや宇宙船が巻き添えになったのも一度や二度では無い。
バーダックに再三注意しても適当に流されてしまう」
カーネル?カーネルサンダースなら知ってるけど・・・。
ザーボン様がモニターの端ら端までカツカツと歩きだす。
踵を返した時にマントが翻り支配層である事を誇示され、でもそれが当然であるように自然に受け入れられる。
一往復したザーボン様はまたモニターの中央で止まり再び視線と身体を俺に向けた。
「高く売れる筈の星でも損傷が激しいと価値や価格が下がってしまう。それは解るだろう?」
「ハイ」
「軍への損害は莫大だ。賠償請求されたら幾ら位になるのかバーダックには理解して貰う必要がある。
そこで。・・・・・お前に協力して貰いたい事がある」
「・・・・?」
何だろう?俺は返事をする代わりに、眉間に皺を寄せ微かに小首を傾げた。
「私の期待に応えてくれるか?」
「ハイッ!俺・・私に出来る事なら協力致します」
「ふっ、そう言ってくれると思っていたよ。まぁそれ以外の答えは受け付けないがな」
「・・・・・」
ですよね。反抗したらその場で殺られただろう。
親父とはまた違った抗えないモノがあるザーボン様に否定の言葉を発するなんて事は、俺ごときが出来るわけなかった。
「では、こちらへ来い」
「ハイ」
何かザーボン様がリモコンのボタンを押したら壁に備え付けの棚が横にスライドした。
「先に入れ」
「ハイ」
隣に部屋があるなんて吃驚した。
しかも普通のドアでもないからこんな所に部屋があるなんて誰も思わないだろう。
俺はザーボン様に促されて恐る恐る隣の部屋に入った。
すると続けてザーボン様が入ってきてドアはスライドして締まり、ただの壁になってしまった。
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