Novel
□『 深淵の環 』★
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〔side Raditz〕
親父が遠征先で戦闘中に怪我を負い、帰還後すぐにメディカルマシーンに入れられた。
メディカルマシーンに世話になるのは日常茶飯事だし、命があれば身体の治癒は完璧なので、トーマさんから連絡があっても驚いたり心配したりはしなかった。
どうせならメディカルマシーンで俺様な態度や言動を直してくれればいいのにと思ってしまって、あの性格は死ななきゃ直らないなとトーマさんに笑って冗談を言ったりしていた。
しかしいつもと違ってトーマさんが神妙な声ですぐに医療部に来てくれというので、夕飯の支度もそこそこに家を出た。
軍の医療部に着くまで、いやドクターの話を聞くまでは夕飯の支度が途中だったので、親父の心配より煮込み料理の火を止めてしまった方が気になってしまっていた。
すぐに親父がいる病室には入れてもらえなくて、ドクターが話があるというので別室に通された。
俺がまだ未成年だからとトーマさんが付き添ってくれた。
「え?なんて?」
「だから、バーダックさんは記憶障害・・・記憶喪失です」
「は?」
「脳波の異常はありませんでしたが、逆行性のものでバーダックさんが十八歳位に戻ってしまったのです」
怪我をするまでの経緯やメディカルマシーンに入っている際におこなったボディチェックの結果の説明の後に脳の障害がある事を聞かされた。
俺はドクターの言っている説明の意味が解らずトーマさんの顔を不安げに見た。
「要約するとラディッツの事も記憶が無いって事だ」
「お、俺どうすれば・・・」
「人のサポートが必要ですが、バーダックさんの場合は・・・」
今度はトーマさんとドクターが顔を見合わせている。
「俺っ!どんなことも協力します」
親父とトーマさんは小さい時からの親友で親父の事を良く知っている。
ドクターもフリーザ軍の古参の人で人望が厚い人だ。
当然若い親父の事も良く知っているのだろう。
「少し離れて暮らして様子を見た方がいいかもしれないな」
「トーマさん?なんでそんな事・・・?」
「私も一緒に住む事はお勧めしないな。仕事をこなしているうちに思い出すかもしれないからね。焦らないで治療していく方がいいかもしれないな」
「バダだって一人暮らししていたし、一応一通りは何でも出来るからな。今はお前が何でもやっちまうからバダがやらなくなったってだけだし、一人にさせても問題ねぇぞ」
「俺、面倒見ます!親父ですから。トーマさん!・・・ドクター、お願いします」
「まぁ、お前がそんなに言うなら止めはしねぇけどよ。相当の覚悟が必要だぞ」
「・・・覚悟?」
「二十歳前位のバダなんて、今の比じゃない位の俺様な危険野郎だったからな」
ドクターもウンウンと頷いている。
「尖がってって全身ナイフの様にすぐにキレてたんだ。すぐ手が出るし目が合って気に入らない奴はすぐに殺していたし、何にもなくて暇な時は自分から喧嘩売ってた位だ。友達止めようと思ったのも一度や二度じゃないぜ」
「そう言うトーマも相当だったけどなぁ。まぁ、似た者同士だったって事だ」
「ドクターには敵わないなぁ」
「俺の知ってる親父とは違うみたい・・・」
「そうだ。今のバダはお前の事溺愛して大事にしているけど、別人だと思った方がいいな」
「君の母親と出会って少しづつ変わったんだ。そして君が生まれてからは随分丸くなったと思うよ。まぁ戦闘の時は若い時とは違うパワーが出てきたみたいだけどな。」
今度はトーマさんがウンウンと頷いている。
「どうするんだ?一緒に住むんだったらバダを混乱させない為に俺とドクターが先に説明しておかなきゃ速攻暴れるぞ?」
トーマさんとドクターは一緒に住む事を勧めなかったけど、俺の気持ちは固まっていた。
「俺は親父といます」
トーマさんは一つ溜息を吐いて、俺の頭をガシガシと撫でてドクターと一緒に親父の所へ行ってしまった。