Novel

□『移りゆく気持ち』
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額に手を当て伝わってくるラディッツの熱に眉間に皺を寄せた。

熱が高いな。まずカカロットが買った冷却シートを額に乗せる。

目を覚ます様子が無いので階下にあるキッチンへ行き粥を作り始めた。

知らない家で一人で台所に立つって戸惑いもあったが 流石は家事の達人のラディッツだ。

何が何処にあるか関連性があるものがすぐに取り出せるようになっていて、無駄な動線が無いように配置されている。

道具や調味料とか食器類とか使い勝手が良くラディッツの几帳面な性格が良く表れている。

台所の配置なんて気にした事も無かったが、肉屋で働いていると
包丁は使わないけど見るだけでも使い勝手の良し悪しが分かるようにもなってくる。

布巾も真っ白で気持ちがいい。

シンクの中にはオレンジ色の輪っかが底に付いたプラスチックのコップが置いてある。

多分カカロットが飲んで置いていったものだろう。

鍋の粥も程よくなり卵を入れてかき混ぜて蓋をしガスを止めてラディッツの様子を見に行く。

ここに来る前に一応喉越しがいいゼリーとかスポーツドリンクとか買ってきたけど、腹に何か入れてから薬飲ませないと・・・。



「ラディ」

声を掛けたがぐっすりと寝ているみたいだ。

無理に起こすことはないかと温かくなっている冷却シートを剥がし額に手を置きラディッツを見下ろす。

小さなシートで直ぐに熱は下がんないよな、と新しいシートを額に乗せた。


学生時代から長い付き合いだけど、あまりマジマジとラディッツを観察したことが無かったが・・・。

何なんだろう?寝ているだけなのにこの半端ない色気は。

熱をもった少し汗ばんだ肌理細かい陶器のような滑らかな肌がしっとりと自分の掌に吸い付いてくる。

手触りがいい肌質は飽きることが無くずうっと触っていたい。
 
浅い呼吸が形の良いうっすらと空いている赤い唇からこぼれている様は扇情的である。

指先を額から頬、耳朶を少し弄ってから唇に添わせる。

唇の縁に合わせて指を動かすと むず痒いのか「う〜ん」と首を傾けた。

誘われる感じがして耳下から手を添え、そっと顔の向きを真上に戻し触れる位のキスを落とす。

キスとも言えない行為を一回で止めようと思っていたがもう少し強めに唇を押し付けてみる。

ラディッツの唇を奪ったのに何故か自分の何かを奪われた感覚。

それが何かは分からないけれど・・。

柔らかく弾力があるラディッツの唇は官能的で
それを知ってしまえばそこから抜け出せない抗えない魅力があると思った。

すこし食んで唇を離すと吐息が熱い。

身体が熱いのはラディッツのものか自分のものか・・・。

少し開かれた唇から舌を差し入れ、口腔内をこじ開け堪能する。

自制が効かなくなってラディッツの舌を絡めとり吸い上げる。

「うん・・んん」

ラディッツからくぐもった甘い声が発せられる。

が、未だ意識は浮上してきてはいない。

どちらとも分からないお互いの唾液をラディッツが嚥下するのが分かって理性を寄せ集め唇を離した。

身体の奥から疼きが湧いて出てくるのを自覚した。

男を前にして・・いやラディッツだからこそだ。

ラディッツと初めて身体を合わせたいという欲求が出てきた事に一瞬戸惑いもしたが自然な事だとも思いそれを享受する。

今まで自分は女性しか知らなかったが、今のラディッツは女性より艶っぽい。

ラディッツが自分を求め自分の腕の中で婀娜やかな声を上げ乱れて欲しい。

互いに互いを貪り合えればとラディッツの顔を切なげに、そして捕食者の目で見降ろす。

うなじに添えてあった指を肩口から鎖骨へ肌触りを堪能しながら滑らかに沿わせていく。

肩下まである薄手のブランケットを指で引き下げると眉間に皺を寄せ長い指を止めた。

「これはこれは」

ふっと息を出し色濃く付いている誰かがつけたかであろう刻印に目を見張る。



所有の刻印

一か所に執拗なまでに重ねられているそれ・・・。

心臓の上に!

なんていう独占欲だろうか。

何故か分からないが猛烈な嫉妬心が湧き上がってきた。

学生時代、まぁ今もだが自分からアプローチをしなくても女が勝手にやってきていた。

色々なタイプがいてフィーリングが合えば身体を重ねた。

特定な相手は作る必要は無かったのだ。

女も女で興味本位に俺に近づいて来るようなのばかりで 
俺の上に勝手に跨っては去って行った。

少し関係が続いた女も最初のウチは軽やかな笑い声を上げていたけれど自分だけのモノにならないと悟った途端
勝手に泣いて勝手に怒って勝手に自分で関係を終わらせていった。

俺は女に縋ることも追う事もしなかったし関係を繋いでおきたい相手もいなかった。

自分から付き合いたいと思った相手はいたっけ?と客観的に思い
少し考え、いなかった事に今更ながら少し驚き、それが淋しい感情と気がつかず心の中で笑い飛ばした。

とっかえひっかえ女と付き合っていた俺の近くに必ずラディッツがいたのだ。

絶妙なタイミングでラディッツは俺に声を掛けてきたっけ。

女と付き合っている時はラディッツの存在も忘れていたが、切れている時は良くつるんで遊んでいた。

付かず離れずの関係が心地良かったのは、その当時は気が付かなかった。

女と別れる度に「相手の気持ちも考えろよ」なんてラディッツのくせに言ってきて。

それは呆れているのを装って、色々な女と付き合うことが出来る俺の事が羨ましいんだと思っていた。

ラディッツには特定な相手がいると聞いたことも見た事も無かった。

ラディッツもそこそこにモテる奴だ。

女にも男にも告られているのを見たことがある。

しかし断り続けていたはずで、付き合う事無く今日まで相手がいないと思っていた。

ただ単に奥手だと思っていたがこのキスマを見たら・・・。

こんなに色濃く付けられるキスマの相手は誰なのだろうか?

自分の中に嫉妬心と共に湧き出してきた欲情に加えて誰かが執着しているであろうラディッツを略奪し
めちゃくちゃに犯したら面白そうだな、なんて思っていると下の階で物音がした。


反射的にブランケットを肩まで引き上げベッドから数歩下がる。

階段を上がる音がどんどん大きくなってドアの前で一瞬止まる。

ドアノブが回るのを何の感情も読み取れない表情でじっと見つめた。
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