Novel 2

□『ターレスのイタズラ日記 3 』
1ページ/5ページ






「俺、マイちゃんと昨日別れたんだ」



放課後、学校から家の途中にある土手の上の道を並んで歩いている途中でターレスはおもむろに口を開いた。


「あ〜だから久しぶりに一緒に帰ろうかって言ってきたんだ。でもあんなに仲良さげだったのに?・・・今回も三か月持たなかったねぇ」


「向こうから告白してきたのにマジありえねぇよな」


「また振られたの?これで何回目?」


「またって言ってくれるなよ。はぁ〜ったく、最初はいいんだけどなぁ〜」




ポリポリと頭を掻いているターレスは振られたって言っている割にそれ程ショックを受けている感じはしない。



「ん〜なんでだろうね?一見チャラく見えるけど正義感強いし、鈍感だけどクラスを纏めるのも上手いし、喧嘩は強いけど弱い者いじめはしないし・・・」


「おいおい、俺の事褒めているのか貶しているのか分かんねぇ」


「何で振られるのか考えてるんでしょ。まぁターレスは忘れ物多いし、寝ぼすけだし、大喰らいで・・・あっ!ターレス女の子の前でオナラしたでしょ?ターレスのオナラ臭いから」


「んな事、お前の前じゃあるまいし、この俺が女の子の前でする筈無いだろーが」


「え〜っ!何で俺の前ではいいんだよ。俺だって嫌だよ!ターレスのオナラ死ぬほど臭いんだからねっ」


「んな事でラディッツは俺の事嫌いにならないだろ?」


「流石の俺だって今度されたらターレスの事大っ嫌いになっちゃうかもよ?」


「そりゃ無いよ〜!俺達親友だろ?お前に嫌いって言われたら生きていけねぇ」


「何それ?ターレスは大丈夫じゃない?殺してもしぶとく生きてそうだよ」


「まるでゾンビみたいじゃねぇか」




俺の首に腕を回してジャレ付いてくるターレス。


ターレスは俺の事友達としか見ていないけど、俺は・・・俺の気持ちは・・・。



「ぷぷぷ。本当ゾンビみたいだよ。別れても直ぐ付き合いだしてさ。ど〜せまた一ヶ月位したら誰かと付き合っているんじゃない?」


「あはは、違いねぇかも」




ターレスの、その腕を振りほどけない俺は彼の隣で上手く笑えているのだろうか?








ターレスと俺は小学校からの幼馴染で、家の近くに同じ年代の子供が他にいなかったから自然と多くの時間を一緒に過ごしてきた。


今年は隣のクラスになってしまったけど、一緒にお昼も食べるし一緒に途中まで帰る。


親父が長期遠征に行ってしまうとターレスの家で泊まらせて貰う事もあった。


勉強も宿題も遊びも訓練もずっと一緒にやってきた。




ずっとターレスの隣は俺だと思っていた。





中学2年生の夏に女の子に告白されて付き合いだしたターレスは、俺と一緒にいた時間を全部女の子に割いたのだ。


その時の喪失感。



俺はターレスに恋している事に気が付いた。



でもこの想いはターレスに言えない。言えるはずが無い。


ターレスは女の子の事が大好きだって事はこれまでの付き合いで分かっている。


男同士で付き合っている先輩がいて、その時に言ったターレスの言葉は忘れない。





「女の子がいるのに何で男と付き合わなけりゃいけねぇんだ?男同士なんてキモいだけだろ」





だから自分から告白して嫌われるより、親友としてターレスの隣にいる事を選んだんだ。


でも、ターレスが女の子と付き合う度に落ち込んで、別れる度にターレスを慰めているけど心の中では喜んでしまっているのに気が付くと自己嫌悪に陥る。




ターレスが誰かと付き合う度に、何で自分ではないんだろうって思う。



俺が女の子だったら良かったのかな?



いや、男同士だから遠慮もしないで取っ組み合いの喧嘩も出来たし、組手もボロボロになるまでするなんて女の子とは出来ないだろう。



放課後、気弾のエネルギーの貯め方や放ち方なんかを身体の姿勢や手の角度、腕の振り方なんてのを飽きもせず話し合い試し打ち出来たのも男同士だったからだろう。



小学生の時、親父が長期遠征の為ターレスの家に初めて泊りに行った時、緊張して御飯をあまり食べられなかったり、ホームシックになって夜中に声を殺して泣いていたらずっと頭を撫でてくれていて、次の朝そんな俺を揶揄うでもなく笑って朝ご飯を勧めてくれたのもいい思い出だ。



ターレスと過ごしてきた日々は俺にとっては輝かしい。


これからも俺さえ想いを封じ込めていたら、ターレスとの関係は崩れないだろう。





ターレスが女の子と付き合ってない時は、俺と一緒にいてくれる事が殆どなのだから・・・。





そんな日常が永遠と続くとその時までは思っていた。












「お〜、ラディッツの唐揚げは相変わらず上手いな」



ターレスの昼食は普段購買でパンや弁当を買って済ませているけど、やはり育ち盛りの男子学生は市販の弁当やパンだけだと物足りなさそうだ。


だから弁当箱持参の俺は多めにおかずを作ってターレスに食べて貰っている。


明らかに一人分用の弁当箱じゃないけれど、ターレスは気にした事が無い様だ。



でも彼女でもないのにターレスの為に弁当を作ってくるなんて押しつけがましい事はしたくないから、昨夜の親父に作ったつまみの残り物だとか、朝、親父に作ったのが余ったとか言って誤魔化している。



親父が遠征に行ってターレスの家に泊まっていたのも、ターレスに彼女が出来てからはしていなかったし、親父が遠征に行っているとかいないとか隣のクラスのターレスには分からないだろう。




あまり野菜を取らないターレスに、如何にして野菜を取って貰うかの工夫を考えるのは結構楽しい。


ターレスの栄養が偏らない様にバランス良く、野菜も多めにして。



「ほらっ!これも食べてみて」

「へ〜、生春巻き?」

「うん。中に豚の生姜焼き入ってるよ」

「ふむっ」

「あははっ。野菜だけだったら絶対食べてなかったでしょ?味濃い目にしてるから野菜多めで丁度いいかも」




日差しが少し強くなってきた昼休み、俺とターレスは毎日屋上で弁当を食べている。


放課後も一緒に帰って宿題や組手をし、休みの日もどちらかの家でゲームをしたり買い物行ったり。



だから忘れていたんだ。




俺とターレスとは友達だっただけって事を。






ターレスがマイちゃんと別れてから一ヶ月半位過ぎた頃、その日は突然やってきた。










ある日の放課後、ターレスと俺は土手の上の道を肩を並べて歩いて帰宅途中だった。


川の水位は高くなく、夕方の日の光を映してゆっくりと流れている。





「・・・・・と付き合う事になった」


「え?」



ターレスは頭を掻いてモジモジと身体を揺らしていて落ち着きがない。


あ〜また誰かから告白されて付き合う事になったんだなって思った。


でも今迄とは違って相手の事を言い出しにくそうにしている。


いつもは○年○組の××ちゃんと付き合う事になったってすぐに言ってくるのに。



「う〜。あ〜っと」


も〜勿体ぶって!ちょっとイライラするっ。


「もしかしてこの学校の子じゃない・・・あっ、近くの女子高の子?」


前に1か月位付き合った子が近くの女子高の子だったことがあったっけ。


ターレスはブンブンと頭を横に振って今の俺の発言を否定している。



「この学校」と、一言ターレスはボソリと言った。



「まさか・・・まさかターレス・・・先生と?」



言い出せない事は生徒じゃないのかと思った俺は、眼を見開きながら独身の若い女の先生の顔を思い浮べてみた。




「ちげ〜よっ!1年のトランクスと」



2、3人の女の先生の顔を思い浮べていた俺は反応が遅れた。っていうか、多分頭が拒否したんだと思う。


「え?何て言ったの?もう一度言ってよ」


「あ″〜だからっ!だからさ、1−Aのトランクスと付き合う事になったっつーの」




トランクストランクストランク・・・・ス?




「トランクスって男じゃなかった?」


「まぁ、この学校でトランクスって名前の女子学生はいねぇな」


「き、今日はエイプリルフールじゃないし・・・。嫌だなぁターレスったら、そんな冗談言って・・・」


「いや、ラディッツ。これが冗談じゃないんだよな」




ターレスの言葉を信じようとしない俺に、困ったような顔をしているけど俺に報告してホッとしたのか口元は緩んで変な顔になっていた。


「だって、だってさ、ターレス女の子大好きだって言ってたじゃん?男と付き合うなんてキモいって。いきなり何でトラ・・男と付き合うようになったの?」


俺はターレスが男と付き合うのが信じられない気持ちからかそれとも無意識か、トランクスの名前を呼ぶのを躊躇してしまった。


「昨日の日曜日にトランクスに呼び出されてさ。それで告られて」


「昨日か。・・・へぇ〜、ターレスって告られたら誰とでも付き合うんだ?」



俺・・・声震えてないかな?いつものように声出せてる?



「付き合って下さいって告られた時は有り得ねぇし担がれているのかもって断ったんだけど、ウルウルした眼で好きですって言われちゃってさ。
絆されたっていうか、まぁ今付き合っている子もいないし、OKしたら不安そうな顔が笑顔になって、その顔見たら可愛いなって、ちゃんとこの子と付き合えそうだなって。・・・・おい、ラディッツ?」



「あっ、俺。今日は早く帰って来いって親父に言われてたの忘れてたっ!・・・悪い、ターレス俺先行くねっ!」


「おい!ラディッ?急にどうしたんだよ」



俺は浮き上がりながら焦ったような顔を作った。



「親父に用事頼まれてたんだよ。早くしないと怒られちゃう」


俺の親父が短気で怒らせると怖いっていうのは周知の事実としてまかり通っている。


本当は遠征でまだ家に帰って来ていないけど、ターレスには分からないだろう。


「ふぅ〜、そうか。じゃあしょうが無いな」


「うん。明日ね。・・・良かったね。トランクスと付き合う事になって。今度は長く続くといいね」


「あぁ、サンキュ。明日学校でな」



俺は踵を返し、早くターレスと離れたくて全速力で茜色の空を切り裂いた。





それからどうやって家に帰ったのか、家の鍵を開けたりしたのも記憶に無い。


食事も風呂も宿題も着替えすらしないで布団をかぶって泣き続けた。


闇を睨みつけて、叶わぬ恋に身を焦がす。



激流が容赦なく胸の中に流れ込み、俺の心を翻弄する。


俺の心は氷で閉ざされてしまったかのようなのに、涙は枯れる事無く次から次へと流れ出て枕を濡らした。




友達だから、それも幼馴染みの親友だからお互い好きって事だよね?


でもターレス。俺に対する感情はただの友情だったの?


もしかして距離が近すぎて兄弟の様な存在?


俺達家族だった?


友達も家族も恋人とは違う。




俺から告白すれば違かったのだろうか?


でも、女の子が好きだって言っていたから、ターレスの恋人は女の子がなるものだと思っていた。


今までそうだったじゃないか。




だから・・・だから諦めたのに。


男もターレスの恋人になれるなんて・・・。


酷い・・・酷いよ、ターレス。


冗談だって言ってよ。


悪りぃ揶揄っただけだって頭撫でてよ。





苦しい。辛い。ターレス助けてよ。


俺が悲しい時、苦しい時、いつもいつも助けてくれたじゃないか。




なんで?ターレス、なんで?




なんで俺じゃ無かったの?














なんで俺じゃいけなかったの?









.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ