Novel 2

□『 ザーボン様と秘密の部屋 3 』
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俺は今、ザーボン様の私室で裸にさせられベッドの上にいる。




正座させられたと思ったら、手足と手首を拘束されてしまった。


左手首と左足首、右手首と右足首。



そして猿轡と目隠しのフルセットをされてうつ伏せに転がされた。


うつ伏せといっても、手足が拘束されているから、正座で上半身を倒して蹲っているような格好だ。




身体の自由は効かず、話も出来ず、何がどうなっているのか眼で確認も出来ずにいるが、耳だけは塞がれておらず否応なしに音を拾う。


でもザーボン様はこの部屋の何処かにいる筈なのに気配も感じられず、自分が身じろぎする時のシーツの音と自分の不安な気持ちを煽る心臓の鼓動の音だけが大きく響いていた。




「尻を上げろ」


格別大きな声でもないのに、その声は俺の耳から滑り込み、簡単に俺の脳を支配する。




俺は命令に抗う事無く、シーツに頭を預けて尻を上げた。











高校の時、授業の内容から離れて雑談する天文学の先生がたまに教えてくれる「地球」という星のイベント。


この先生の凄い所は、仕入れてきた話を話だけで終わらせない所だった。


企業やメディアのトップ等、先生の人脈は幅広いみたいで、もともとベジータ星には無かったイベントの数々を定着させてしまった。



もう物心ついた時にはあったバレンタインやクリスマス等も先生の提案でこの星にも浸透していったって聞いた時には吃驚した。


何より先生とフリーザ様はマブダチみたいで、新しモノ好きなフリーザ様がイベントを気に入ると軍が率先して国中をお祭りモードに変えてしまうのだ。



クリスマスの時の国中至る所のライトアップとかが最たるものだろう。


フリーザ様って実は結構ロマンチストかもしれない。




企業も努力してメディア戦略したり、品質がいいものを開発して低価格で販売する様にしたりするから、最初は馬鹿にしたり、興味が無かった人達にも受け入れられていったみたいだ。


今はそのイベントにまんまと踊らされ、その日を大事な記念日と位置付けしている人達もたくさんいる。



元々ベジータ星の祝日や祭りは新年に王族の一般参賀と春と秋の祈年祭と新嘗祭位しか無かったと聞く。


それだけしか娯楽が無かったなんて、そんなクソ面白くない時代に生まれないで良かった。


なんて、この時はそう思ったものだ。



そして今は、これを持ち込んだ先生に心の中で恨み節を呟いていた。





なんでこんな事になっちゃっているんだろう。




でも完全に自分がいけないのは分かっていた。









***



今日は軍の定例会議の日。


そして4月1日で高校の時に先生から聞いた「エイプリルフール」の日。




それを初めて聞いた時、親父に仕掛けてやろうって虎視眈々とその日を来るのをワクワクして待っていたっけ。


高校二年生になったばかりのその日、親父が仕事に行く時に玄関先で俺は言ったんだ。



「親父、大っ嫌い」って。


すると親父は俺の頭をポンポンして、ギュ―ってして、いっぱいキスしてきたんだ。


親父はエイプリルフールなんて全然知らないと思ったから、吃驚したり焦ったりする姿を想像していたのに、俺の予想を斜め上にいってしまった。


何となく肩透かしを食らったみたいで残念な結果になってしまった。


言った相手が悪かったな。全く相手にされなかった。


それか台詞を間違えたんだ。


多分、親父は俺からの「大嫌い」っていうのを「大好き」って脳内変換したんだろう。


都合がいい親父の頭の中を恨めしく思ったものだった。




そして今年。俺はまた同じ台詞だけど、違う相手に言ってしまった。



今更ながら後悔している。


また言う相手と台詞を間違えてしまったと思っても、後の祭り。



何故、その台詞をザーボン様に言ってしまったのだろうって。




会議の前に少し時間があったので、いつもは自分からしない連絡をしたんだ。





「ザーボン様、俺・・・ザーボン様の事、大っ嫌いになりました。もうあの部屋には行きませんから」



もしかして出てくれくれないかもと思っていたけど、すぐに繋がったから焦ってしまったのもある。


一気に言って、一方的にスカウターの通信を切ってしまった。



スカウター越しでもザーボン様が息を詰めるのが分かったな。


へへへ。取りあえず成功だ。





ザーボン様は軍の参謀をしている。


そしてフリーザ様のイベント好きも御存じだから、今日がエイプリルフールで、今俺が言ったのが嘘だって解かっていて、後で俺がザーボン様に「さっきのは嘘でしたぁ〜!吃驚しましたか?」って言っても無表情で「ああ」なんて返してくれるんだろうな。


ほっぺにチュッってキスしてネタ晴らししたら、「知っていたぞ」なぁ〜んて負けず嫌いのザーボン様が片眉上げる表情まで想像できる。




いつもはつまらない会議もザーボン様とのやり取りを想像していたら、すぐに時間が経ってしまった。












おかしい。



会議が終わって、昼食前にもザーボン様に連絡したけど出てくれなかった。


もしかしたら会議後はフリーザ様達と一緒にいるから、私用の連絡には出られなかったのかもしれない。




でも、昼食の時間は殆どの人が同じ休み時間だ。



だから時間は有る筈だと思うけど・・・・・何か用事があるのかな?




ま、・・・・まさか・・・・俺が言った言葉・・・本気だと思っちゃったのかな?



さっきの会議でのザーボン様の表情はいつもの様にクールで格好良かった。



そんなザーボン様を見ていたけれど、怒りとか、勿論無いと思うけど心配とか焦燥の感情は表情とか言葉とかからは見て取れなかった。




逆に俺とはいうと時間が経つにつれ俺の胸の不安がどんどんと膨れ上がって身体を包んでいった。





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