Novel
□『 とりっかとりーっ!』
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この頃遠征は無く、軍本部で内勤が続いている。
今は昼食を終えて食堂で仲間達と一服してまったりしていた。
コーヒーのお代わりを取りに席を立つと、食堂に甲高い子供の声が響き渡った。
ブドウのお化けみたいのやら、牙を付けた黒いマントを羽織ったのとか、訳の分からない動物の着ぐるみを着ているガキ共が食堂になだれ込んできて、何の騒ぎかと眉間に皺を寄せた。
そして数人のガキが俺を取り囲んだ。
「「「とりっかっとりーっ!!」」」
「・・・・・」
「「「とりっかっとりーっ!!」」」
「・・・・・塩だ」
ガキ共は困った顔をして、ヒソヒソと話している。
「何言ってんだろ?このオッサン」
「シっ!聞こえちゃうよ」
「イベント知らないのかな?」
「え〜?マジぃ?」
ヒソヒソ話しているつもりかっつーの。ばっちり聞こえてるぜ。
「あ?」
俺はガキ共を睨み付けると、すくみ上りピタッと大人しくなった。
「おいおい、バーダック。なにトンチンカンな事言ってんだ。ほら、菓子だぞぉ、持っていけ」
「「「ありがとーっ!!!」」」
トーマが菓子袋をガキ共にくれてやると、すぐさま俺の周りから離れていった。
「トンチンカンはガキの方だろ?焼き鳥はタレか塩かっていきなり聞いてきてよぉ。だから塩って答えただけじゃねぇか」
「ぶはっ。ったく、焼き鳥の話じゃねぇし。テーブルに菓子袋があっただろ?それをやりゃぁいいだけの話だ。月初の集会の時に説明されてただろ?」
「んな昔の事覚えちゃいねぇな」
「はぁ、良くもそれでリーダーだよなぁ。なんでも小学校の天文学?の先公が地球っつー星のハロウィンって言うイベントを軍に持ち込んできたんだと」
「あぁ、あのラディの学校の地球かぶれの先公か。父の日っつーのも、その先公だったよな?また、くっだらねぇのを・・・」
「やっぱり一番人気のコスプレはフリーザ様だな。メガ・ドンキングでも売ってたけど手作りのヤツも多いな。お、あの尻尾なんてうまく出来てるじゃねぇか。なぁ?」
「何が面白いんだか。っで、何でコスプレして変な事言われて菓子やんなきゃいけねえんだよ」
「詳しい事は知らねぇけど・・・トリック・オア・トリートだよ。お菓子かいたずら。お菓子をくれなきゃ・・・」
「くれなきゃ、何だよ?」
「いたずらしちゃうぞ。って、おい、あれラディじゃないか?こっちに来るあれ」
トーマの言った方を見ると、目と口と頬傷がマジックペンで描かれている白い布をかぶって、長い髪が見え隠れしているガキがこちらに歩いてきている。
ガキは俺とトーマの前で立ち止まった。
「とりっかとりーっ!」
「はは、ラディ。それバダの仮装か?ウケるぜ」
「ラディじゃないよ。お化けだぞぉ」
と、白い布の中で手を前にして身体を揺らして、低い声を出しているつもりだろうけど可愛い声に笑いが出る。
「お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞぉ〜」
と、ラディッツが手を広げながら俺の頭の上まで宙に浮いた。
すかさず俺は手を伸ばし、ラディッツのウエストをがっしりと掴んだ。
「おい、俺にいたずらかぁ?いい度胸してんじゃねぇか」
「え?あっ」
と、焦って手足をバタつかせているラディ。
「バーダック、何、大人げない事してんだよっ。菓子くれてやればいいだけだろ」
「ふん、いたずらするヤツは」と言いながら、俺はラディを胸に抱き寄せ、トーマに背を向け耳元であろう所で囁いた。
「あとで・・・お仕置きだ」
頭の所に一つキスをして腕の中でフリーズしてしまったラディを床に下ろした。
「ほ、ほら、ラディ。菓子やるぞ」
トーマがラディに菓子袋を差し出した。
しかしラディはそれを受け取らず、身体を震わせて
「お父さんのばかーっ!」
と、叫んで食堂から出て行ってしまった。
「わっはっは、ラディ。あとでな〜」
隣のトーマは溜息を吐いて苦笑いをしている。
くだらないと思ったイベントだと思っていたけど、家に帰ってからラディと過ごす時間を想像したら楽しくなってきた。
その後、変な言葉を言ってきたガキ共に素直に菓子をやっていた俺の顔は、気持ち悪いニヤケ顔をしていたらしい。
End
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→あとがき