Novel

□『 予感 』 
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「親父?」



ふと気が付いて手を伸ばしても、そこにある筈のぬくもりが無い。


朧げながら何気に目蓋を開けた。





昨夜の親父は熱かった。


夕飯の片付けもそこそこに腕を引かれて寝室に連れて来られちゃって・・・。


頭の先から足の指先・・・髪の毛にもキスされて、優しく激しく俺を抱いて。


激しい嵐の中にいる様な、でも嵐から守られている様な・・・上手く表現できないけど親父の愛情が伝わってくるセックスだった。





トイレかな?



まだ身体の中に熱い風が吹き荒れているみたいだけど、親父がいた所のシーツを撫でると既に冷たくなっていて、自分との温度差に胸がざわついた。





今日から遠征って言ってたけど、集合時間はこんなに早く無かった筈・・・。






おかしい・・・。



俺は何故か不安になってベッドから抜け出した。




階下に下りると、もう親父が戦闘服を身に着けていて、片手にはスカウターを持っている。




「親父!?」



もしかして、俺に何も言わないで行くつもりだった?


途端に寂しくなってきて、胸が押し潰されそうな感覚がした。




「おっ?起きちまったか?まだ4時・・」


「もう行くの?」


「あぁ、ちと集合が早くなっちまったんだよ」


「何で?何で起こしてくれなかったの?」


「昨夜のあれで・・・・お前、良く寝てたから・・・」


「朝メシっ!朝メシは?すぐ用意するよっ!」


「いや、もう行かないと。」


「俺・・ぐすっ」


「んな、泣くな。明後日には帰ってくるだろ」


「ん、親父ぎゅうぅッ」


「ははっ。しっかし、んなすっぽんぽんで見送りか?まぁ、おかげで眼ぇ覚めたぜ」


「・・・・・・・」


「ほら、もう行かないと」


「・・・やぁ」


「ふっ、・・・・・ラディ、帰ったらお前のメシ食いたい」


「ん、・・・・・・作って待ってる」


「いい子だ。行ってくる」





玄関先でいっぱいキスをしてくれた親父。


俺は親父にしがみついているだけで、いつもの様に親父には何もしてあげられなかった。


いつもだったら親父のキスが嬉しいだけだったのに、今朝は何故だか寂しくって悲しい。



「行ってらっしゃい」





暫くの間、親父の事を飲み込んでしまった夜空を見つめていた。




この時間の空の高い所には無数の星が煌いていて、東の地平線の所が薄く白んできている。


もう少し時間が経てば・・・俺の心の中も陽が差し込んできて明るくなるのだろうか?





そんな時間の移り変わりに期待して、俺は玄関のドアを閉めた。




End







→あとがき

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