Novel
□『 白い雲のうつつと夢 』★
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親父・・・?
目の前にいるのに・・・手を伸ばしても届かない。
触れられそうなのに俺の手は空を切るだけ。
俺の事を見つめて微笑んで何かを言っているけど聞こえなくて・・・。
声が聞きたいのに
肌を合わせたいのに
どうして抱きしめてくれないの?
どうしてキスをしてくれないの?
あぁ・・・泣きそうな笑顔をだけを残して親父は踵を返して行ってしまった。
追いかけたいのに脚は床に縫い付けられてしまったのかの様に動かなくって
大声で叫んでいる筈なのに親父には届いていない。
何故俺を置いていくの?
何故一緒に連れて行ってくれないの?
小さくなっていく親父の背中を見ていると不安になって
親父の全てが恋しくて悲しくて・・・ただ俺は親父の事を呼び続ける事しか出来なかった。
親父が完全に見えなくなってしまった空間が突然真っ白になって、熱いのか冷たいのか暖かいのか寒いのか自分が何処にいるのかさえも解らない。
立ってるのか座っているのか横になっているのか浮いているのか沈んでいるのか・・・ただ身を任せるのみだ。
この静けさの中で頭の中に響く心臓の音だけに縋るしかなかった。
その心臓の音はゆうるりと時を刻むように規則正しく、そして切ない。
そんな俺に出来る事は涙を流す事だけだった。
*****
「おい」
「ラディ」
「ラディッツ」
「起きろ〜ラディ」
仕事から帰って来るとリビングのソファでラディッツが寝ていた。
涙を流しながら魘されているラディッツは起きる気配が無い。
顔を見ると悲しげで苦しそうで、明らかに変な夢を見ていると分かる。
こんなに泣いているっつー事は、多分、99,8%の確率で俺絡みの夢だろう。
前に見た夢で泣いていたのは、俺がどこぞの巨大な宇宙人に踏みつけられてしまうとか怪獣に一口に食べられてしまうとか雷に打たれて真っ黒こげになったりとかの夢だった。
実は俺が痛がったり苦しんだりすればいいなんて願望が夢に出ているんじゃないだろうか?
普段苛めているのを根に持ってるのか?
ふっ、そうだったら起きてきて泣いて縋ってきても許しはしねぇ。
しかし俺の事を誰かに倒させて、それで悲しくなって泣くって良く解らん。
俺はぺチぺチとラディッツの頬を軽く叩いた。
すると花の蕾が開くようにラディッツの瞳も開いていった。
「ラディ・・・こんな所で寝ていると風邪ひくぞ」
「・・・・・」
「・・・ラディッツ・・・・どした?」
「お・・やじ・・?」
「ふっ・・・お前、また夢見てただろ?・・今度は何だ?俺が誰かに吹き飛ば・・ッ!ラディ?」
寝ているラディッツの横に座って指先をスベスベの頬に滑らせていたら、ラディッツがガバリと起きて俺の胸に顔を埋め腕を背中に回してきた。