Novel
□『 ずっと一緒に 』
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今日はクリスマス・イブ。
イベント事には興味が無い親父に、たまには外でデートしたいって駄々を捏ねたら渋々OKしてくれた。
夕方に街の中央広場にある大きなモミの木の下で待ち合わせをする事にした。
ここ数年のクリスマスは親父は遠征でいなくて、俺はクラスメイト数人でスーパーの中にあるフードコートで話をしながら食事をして過ごす位だった。
映画を見て食事をして街路樹やおしゃれな店のイルミネーションを見て歩く、そんなごく普通の行動だけどクリスマスに恋人である親父と過ごせるという事にくすぐったい様なワクワクする様な感じがする。
親父の仕事帰りに外で待ち合わせを決めたのは、親父が家に帰って来てから出掛けるって事はしてくれないと思ったからだ。
冬休みまで数日となった学校も午前中で終わるので俺は一旦家に帰りケーキを焼いた。
親父はただのケーキだとしか思ってくれなさそうだけど、俺はいつもとは違って何となく特別なケーキの様に思えた。
親父の事を想って作ったケーキは自分で言うのもなんだけど上手に出来て、二つに切った瑞々しいイチゴを生クリームの上に飾り付けていった。
最後に市販の『Merry Christmas』と書いてあるチョコレートプレートを少し斜めに傾け、砂糖菓子で出来ている小さなサンタを飾ればクリスマスケーキが完成した。
外でデートを楽しんで、家に帰って来てからこのケーキを二人で食べる姿を想像して、自然と笑みが零れる。
ケーキを注意深く持ち冷蔵庫入れてから家を出た。
薄暗くなってきた街並みには少しづつ灯りが灯ってきていて、まるで暗く寂しくなる気持ちを明るくする様に色が瞬きだした。
人も段々増えてきていて、広場へ続く道は飛行禁止で人人人でごった返してきた。
こんな人込みを歩くなんて親父はきっと気に入らないかもしれないけれど、久しぶりに映画を観たり居酒屋じゃないレストランで食事をするから親父も少しは楽しみにしてくれているんじゃないかと思っていた。
それにしても寒いな。
冷たくなった指先に息を吹きかけていると仏頂面をしている親父が前から歩いて来るのが見えた。
親父は少し遅れてきたのもいつもの様に悪びれる様子も無く、人込みの多さに舌打ちをし悪態をつきっぱなしだ。
「ったくウゼェ。なんでこんななのに飛んじゃいけねぇのかよっ」
「しょうがないよ。禁止エリアだし、逆にこの人で飛んだら危ないからね」
「チッ」
「そんな事よりこのモミの木のイルミ凄い綺麗だよね?」
「はんっ、腹の足しにもなりゃしねぇ」
はぁ〜やはりイルミネーションは興味が無かったかぁ。
まぁ、ポッドの中から宇宙空間で見る煌く無数の星を見ているから人工の光なんて興味が無いのかもしれない。
「もうすぐ映画の時間だから行く?」
俺は気を取り直して親父に言った。
バケツの様な大きさのポップコーンと超ラージサイズのコーラを持って映画館のシートに座った。
主人公の恋愛も絡めたバイオレンスアクションの描写があるスパイ映画で面白い。
音響もいい映画館で大きな画面で見る臨場感が半端ない。
戦闘シーンでは、あまりの迫力に身体がビクンビクンと跳ね上がってしまった。
戦闘シーンが終わって少し場面が変わり、主人公のキスシーンやちょっとHなシーンがあって、こういうのを親父と一緒に観るのは恥ずかしいなとふと隣の親父を見たら目を瞑って寝ていた。
信じられない・・・
さっきの大きな音の中でも寝てしまうなんて・・・。
先日、テレビを見ていたら新作映画の紹介をしていてプロモーションビデオを見ていたら珍しく親父が面白そうだなってポロッと言ったので一緒に観ようと決めたのに。
親父はエンドロールが流れ出し少し経った所で大きな欠伸をして腕を上げて身体を伸ばした。
「面白くなかった?」
「はぁ〜、あんなかったりぃ殺りかたじゃぁな。」
「実際に戦闘してる人からしてみれば確かにじれったい内容だったかもね」
今更だけど、バイオレンスアクションな日常な人が観る映画では無かったかもしれない。
ふぅ〜と溜息を一つ吐くと親父が腹減ったと訴えてきたので、これまたテレビで紹介されていたイタリアンレストランへ向かった。
しかし流石イブだ。
前もって予約しないと無理ですよと、予約でも並んでいるのだから飛び込みはまず無理ですと店員に諭され諦めて店を出た。