Novel
□『ラディのお買い物』
1ページ/3ページ
.
ここは惑星ベジータの下級戦士が多く住む下町の人種るつぼな商店街。
店も客もサイヤ人を筆頭に色々な惑星からの移住者も多い。
アーケードが500m程続いており、道路の両脇には食料品、日用品、雑貨店、飲食店その他諸々の店舗が犇き合っている。
遠征帰りのバーダックは軍施設から家までの帰り道の途中にあるこの商店街の入り口にある昔馴染みのタバコ屋に立ち寄っていた。
「今帰りかい?今日は早いね」
現役引退したサイヤ人の爺さんは 一見人の好さそうな皺が刻まれた風貌だが弛んだ目蓋の奥の獰猛な光はまだまだ衰えてはいない。
惑星ベジータの生き字引と言われ、王宮や軍の上層部、はたまたヤバい系の異星人の裏稼業にも精通しているという噂だ。
そんな爺さんもバーダックを見やるとその光も幾分柔らかくなるようだ。
表向きは優しげなので子供にも人気だ。
「ああ、いつもの1カートンくれ」
このじーさんは自分が物心つく時から変わらない風貌だがいったい幾つなんだろう?
なんてぼんやり思っていると「ほい」と煙草の箱をカウンターの上に出されたので金を払って立ち去ろうとすると
「さっきラディッツが買い物しに中に入っていったぞ」と教えてくれた。
別に先に帰っても良かったのだが、まぁ今帰っても飯が無いんだったらと、じゃあなと挨拶も早々に、アーケードの中の何処かにいるラディッツの後を追う事にした。
少し歩くと遠目に見慣れた後姿のちょっと大きめの買い物かごを持っているラディッツがいた。
惣菜屋の異星人のおばちゃんと話し込んでいるみたいだ。
会話が聞こえてくる。
「この前ラディちゃんがアドバイスしてくれた通りに、隠し味でちょっと胡麻油入れてみたら大好評で、それ出すとすぐに売れ切れちゃうのよ〜ありがとね」
「いえいえ、アドバイスなんて、、、おこがましいことスミマセン」
「スミマセンなんて水臭いわ〜、そうだ!試作あるのよ。ちょっと食べてみて」
「美味しい!これイケる」
「ラディちゃんのお墨付きを貰ったから、早速商品化するわ」
「楽しみにしてますよ」
「いっぱい作ったから持っていってくれる?」
え〜いいんですか?なんて言いながらちゃっかり貰ってこういう事が一つの楽しみにもなっているんだろう。
酒や加工食品等は宅配で頼んでいるが、生鮮食品は出来るだけ自分の眼で見て買いたいんだと時間がある限り足を運んでここに買い物に来ている息子を宅配とそんなに変わらないだろーと思いつつもこういう場面を見ると家計を任せているしっかりちゃっかり者の息子を心の中でクスリと笑う。
バーダックは、息子に声を掛けそびれ主婦みたいな会話をするのを聞きながら煙草に火をつけラディッツが自分に気が付くまで待ってるかと電柱に背をもたれて商店街を見渡す。
ここの数本先の路地を入れば、サイヤ人御用達の安くて量がある居酒屋があるのだが、午後の3時過ぎではまだ営業はしてなく、24時間営業の飲み屋はもう少し歩く所にある。
酒は家に帰ってからだな〜なんてラディッツのいる方を見るといる筈の息子がそこにはいなかった。
俺に気がつかなかったのか?鈍くさい奴と自分勝手に舌打ちした視線の先には、パンの耳を袋いっぱいに貰っているラディッツがいた。
多分カカロットが週末に家に帰って来たときにオヤツでも作ってやるんだろう。
ふぅ〜と一つ溜息とともに煙を吐き出す。
魚屋からは「ラディッツ!活きのいいのが入ってるよ〜!」と元気のある皺枯れた声が息子を呼び止めている。
「今日は親父が帰ってくるから肉なんだ〜また今度ね」と片手を顔のところに持っていきゴメンと返している。
そういえば遠征から帰って来ると有難い事にいつも肉料理だ。
たまに食材が豊富な星もあるのだが、食べられる物が無いもしくは不味い星のほうが圧倒的に多く、支給された宇宙食はレパートリーも少なくて 遠征中はロクなものが食べられない方が多い。
肉も恐竜みたいな大物がいれば腹の足しにもなるが、鶏位の大きさの肉だと満足感もなく、むしろそれが呼び水となって空腹感が増すというものだ。
疲れて帰って来てラディッツの料理を食べてホッとすると思うなんて自分も歳を取ったのかなんて自虐的に思ってしまう。
「!」
ラディッツが何も無い所で躓いた。
周りをキョロキョロし頬を赤く染めている。
何やってんだか。アホ可愛いヤツだ。
商店街の中でも人だかりが出来ている肉屋の前でラディッツが立ち止る。
息子の前にいるサイヤ人や異星人の老若婦人達が何故かキャーキャー言いながら注文していく様に、ここの店の店主は自分より20歳位年上のオヤジだったと思うが人気あるのか?
まだまだ時間がかかりそうだとバーダックはウンザリと2本目の煙草に火をつけた。
息子と顔見知りだと思える派手な化粧をした異星人の婆さんが
「あんたも負けてないわよ」
と、チラッと肉屋の中を見てラディッツの腕をバンバンと叩き笑っている。
他のオバサン達もなんだかんだ苦笑をしながら相手をしているラディッツを微笑ましく見守る。
段々と客がはけていき、ラディッツの注文の番になった。
客も一段落したのかラディッツの後ろには人は並んでいなかった。
一言三言言葉を交わして注文をしている様子が伺える。
あぁ、やっと買い物が終わって家に帰れると 息子は自分がいるのは知らないし別に待っている義理は無いのだが待たされている感じがしてイライラが募ってくる。
3本目の煙草に火をつけ目を瞑って煙を燻らす。
そこへラディッツの笑い声がバーダックの方まで聞こえてきた。
ハタッと顔をあげラディッツを見る。
こちらからは肉屋の看板で肉屋の顔は見えないが、先程までの社交辞令的な笑顔とは違い、ラディッツの楽しそうな笑顔が見て取れる。
相手の声も若者の声色だ。
どんなのと話しているのか気になったバーダックは、肉屋の向かい側の店ギリギリに歩いて通りすがりを装い肉屋の顔を見て驚いた。
黒いタンクトップに肉屋のマークが入った赤いエプロンをつけた浅黒い肌の男はまだ線は細いが自分によく似ていたのだ。
ラディッツと同じ歳位か?
下級戦士にありがちな顔立ちだがニヤけた顔を自分の息子に向けていて、ラディッツも嬉しそうに話をしているのが何となく面白くない。
短くなった火の点いたままの煙草を握り潰し、そのまま肉屋を通り過ぎ次の路地を曲がってアーケードが切れた所で飛び去ってしまった。
.