松野家の7人目

□第1話
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春とは言え、寒さが残る4月の下旬。

俺はいつものように台所に立ち、朝食兼弁当を作る。

これは中学から行っており、もはや癖と言っても良い。朝食兼弁当を作らない日(日曜以外)があるとモヤモヤするくらいだ。


作り終え、椅子に座って一息付けばドタドタと言う勢いよく階段を降りてくる音が聞こえた。

その音で誰が起きてきたのかすぐにわかった。



「かど松おっはよー!!」

『おはよ、十にぃ』



ドアを盛大に開けてタックルに似た抱擁をしてくれたのは、1才歳上の五番目の兄。松野 十四松。

野球部に所属している十にぃは朝練があるから他のにぃ達より早く起きてくる。



「かど松!かど松!いつもの早く早くっ!!」

『はいはい』



顔を近付けて子供のようにねだる兄の愛しさに小さく笑みをこぼしながら、差し出された左頬に軽く口付ける。

これも俺たちは生粋の日本人だけど、朝の恒例行事。いつから始めたのかは覚えてない。

頬から唇が離れ、十にぃを見てみると学ランの裾から出ているダルダルの袖を口元に当てて若干照れながら嬉しそうに笑って「相変わらずかど松の唇は柔らけーっすね」なんて言うから、こっちまで照れてしまう。



「顔赤い!かわいー!!」

『俺より十にぃの方が可愛いよ』



きゃっきゃっと騒ぐ十にぃに照れ隠し混じりに早く食べて行かないと遅刻するよ。と言えば、やっべー!と居間へと走っていく。

それを見送って、黄色い茶碗と緑の茶碗を用意してご飯をよそい、味噌汁と鮭の塩焼きと言う純和食をお盆に乗せ、居間へと持っていく。

すると、タイミングよく居間の戸が開き、緑の茶碗の主が現れる。



『おはよ、チョロにぃ』

「ん、おはよ」



お盆をちゃぶ台に置いてチョロにぃの頬にキスをすれば、相変わらず口はへの字だけれど、満足そうに微笑みだ。

俺の3番目の兄。松野 チョロ松。

昔の悪餓鬼はどこへやら。今はキッチリとした服装に髪型の自称常識人となったチョロにぃは、進んで学級委員長となり、行く行くは生徒会長になるらしい。

俺なら絶対にめんどくさくてやらない。

ちゃぶ台に茶碗などを並べると、いただきます。と二つの声。



「うんまー!!」

「うん。美味しい」



美味しそうに食べる二人を見ているだけで満足だけれど、きちんと言葉にしてくれるからとても嬉しい。作った甲斐がある。



『お弁当は台所のテーブルに置いてあるから。忘れないでね。』



それだけ言い渡して、廊下に出る。

さぁ、もう一つの大仕事をしようかな。






「かど松は良いお嫁さんになりますなー!」

「そうだね。……まぁ、行かせないけど」


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