Bungo Stray Dogs

□I am worthy of you.
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その日、武装探偵社には一つの贈り物(ギフト)が届いた。

郵便物や依頼等ではない、紛れも無く、疑いようもなく一個人に対しての贈り物が届いたのだ。社員の誰もが一度は其れに目を向け、そして其れを見つめては眉を顰め額に手を置く女を見た。

長い長いため息を吐いては、届けられた贈り物を如何に処理すべきかをただひたすらに考えている。



「おおー凄いですねえ。どうしたんですか? あれ」
「組合の団長からの贈り物だッてさ」
「何本ぐらいあるんでしょうか。やっぱり都会って凄いです」
「さァね」



賢治と与謝野は遠巻きに贈り物とその前に立ち、未だ頭を抱える輝夜を見た。探偵社に届けられた贈り物、それはもはや何本あるか数えるのも疲れる大量の白い薔薇。送り主は組合団長、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドだ。例の男は如何やら、彼女に対し事あるごとに金に物を云わせた贈り物を一方的に送りつけてくる。

その理由は彼が彼女に惚れているからか、それとも単に不老不死の妙薬と呼ばれる異能力自体を手に入れたいからか、輝夜自身は後者だと思っている。が、探偵社の面々は確実に前者だと踏んでいた。



「如何して態々探偵社に届けてくるの。意味が判らない」



判りたくもないけれど、と今日何度目かになる重く深いため息を吐いて輝夜はその片付けを開始する。個人的に贈ってくるのもだが、態々職場に届けてくれば事更に腹が立つという物だ。



「とりあえず水に差して……」
「これ全部プリザーブドフラワーだから水に刺さなくても萎れないよ」
「プリザー……? 太宰君、何て?」
「特殊加工された花の事。目玉が飛び出るほど高価いだろうね、これだけあれば」



隣に寄ってきた太宰の言葉に輝夜は目を見開き、太宰の顔と大量の白い薔薇とを交互に見た。頭に札束の詰まった成金男の考える事は本当に判らない、そんな心の声が読めるようだった。太宰は手を伸ばし、ぷちりと輝夜の抱える白薔薇から花びらをむしり取る。



「そんな顔をする位なら棄ててしまえば善いのに。」

「……其れはそうだけれど、花に罪はないじゃない。よし、決めた。賢治くん一寸手伝ってくれる?」
「はい。分かりました!」



そして輝夜は賢治を連れて大量の薔薇を処理する為に出かけた。処理、といっても探偵社が入った建築物内の喫茶店やらにお裾分けに行っただけだ。それでも未だ机の上には白薔薇が残っている。太宰が肩を竦め、振り返れば机に座る乱歩がねりあめをくるくると練りながら聞いた。



「何て書いてあった?」
「見ますか?」
「見なくても分かるけどね。どうせ意味ないし」



太宰が手を開けばそこには粉々になった白薔薇の花弁と共に皺の刻まれた紙片が在った。

超推理を経始するまでもない、興味なさ気に乱歩はねりあめに視線を戻した。社員寮にも何度か輝夜宛に高価な物が送られて来ていたし、その度に眉間に皺を寄せ悩ましくため息を吐く彼女の姿も乱歩は何度も見ていた。


此度、何故態々送り先を探偵社に選んできたかも乱歩には判っている。乱歩のみならず、太宰もその理由は察するところであった。この嫌味な白薔薇には探偵社への嫌がらせも含まれているのだろう。

探偵社は貴女には相応しく無い、そんな所か。どんな高価な物を贈ろうと、彼女の心には決して届かず触れられないのに、その場所は既に埋まっているのだから。乱歩はあぐりとねりあめを口に含み、太宰は粉々の花弁と同じく粉々に千切った紙片を屑籠に捨てた。





「I am worthy of you.」



1001本の白薔薇を探偵社に送り付けたフィッツジェラルドは鼻歌でも奏で出しそうな程の目に見えた上機嫌だった。我ながら考えたものだと内心ほくそ笑んでも居た。何度か高価な装飾品を贈りもしたが、調べた所に寄ると捨ててはいないものの、それらには何一つ手を触れてはいないらしい。

謙虚なのも困りものだ、彼女は他が羨むほどの寵愛をこの俺から受けているというのに。



「……『金で購えないものがある』、か。全く、聞き飽きた貧乏人の決め台詞だ。」



ふと、フィッツジェラルドは彼女の隣に立つ探偵社の男を思い出した。



「……よく見ておけ親友。」



俺は欲しい物は必ず手に入れる。彼女は俺にこそ相応しい。

不老不死を得た女神の未来永劫色褪せることない美しさ。時に不老不死を与える妙薬の如き女。其れは金で購えないのではない、その命と金とを天秤に掛けることが愚かなだけだ。

だから此ればかりは、俺が俺の持てる物全てを遣い、必ず手に入れる。





I am worthy of you.

(枯れない花なんてあるのね、凄いわ)
(……そうか)
(でも私、乱歩や福沢さんと一緒に居れる時が一番幸せ)
(……、……あぁ、私もだ)






(白薔薇の花言葉「I am worthy of you」……私はあなたにふさわしい)

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