Bungo Stray Dogs

□写された長方形
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「敦くんと二人で依頼に出るのは初めてね。改めてよろしく、敦くん」
「よろしくお願いします那代さん!」
「今回の依頼は密輸業者の証拠取りらしいから、比較的簡単ね」
「密輸……なんか嫌な思い出が……」



武装探偵社に入り、一番最初に敦が与えられた仕事が密輸業者の証拠取りだった。余り思い出したくもない記憶に敦が額を押さえれば、彼女はふ、と笑ってちゃんと下調べしているから大丈夫だよ、とその肩に手を置いた。逆の手には写真機が持たれていて、密輸業者の取引の写真を証拠にする心算らしい。

依頼で指定されている場所へと向かう最中、敦は隣を歩く彼女を見てふと考えていた。敦が太宰や国木田から彼女の事を聞くには探偵社設立当初の頃から居る、やる時は容赦無くやる人、等々……。敦から見れば普通に年の近い女の子、温厚で物腰柔らか、そんなところだ。



「そう云えば那代さんも能力者なのでしょう? どんな力なんですか?」
「戦闘向きではないの。応用も利かないし……少し気持ちが悪い能力?」
「へッ?」
「そう云う訳で私、厄介事には多く巻き込まれるものの余り荒事は得意ではなくて」



だから期待しないでね、と苦笑した。荒事が得意ではなさそう、というのは細っこい手足を見れば容易に察せれるのだが、気持ちの悪い異能とはなんだろう、と敦は首を傾げた。

国木田の話を聞き、探偵社設立当初から、つまり今から10年近く前から居るというのにその見た目が17、18歳程の少女にしか見えぬことと何か関係があるのか、そうも思っていた。


謎多き先輩に対する疑問は尽きないものの、その日敦は太宰の云ったやる時は容赦無くやる人、という言葉を身に刻み付ける思いで納得した。張り込むこと数時間、密輸業者の取引を収めた証拠写真を撮影した後の事。お疲れ様という意味で、敦は奢って貰ったラムネを飲んでいた。

前後は省くが、結論を云うと写真を撮った事に気付いた密輸業者の人間の一人が後を付けてきていて、その人間の頭に飲み終わったラムネ瓶を輝夜が振り下ろし――昏倒させた。そんな感じだ。



「えっええ、えええええッ!?」



情けなく上げたのは悲鳴というより、驚愕混じりの叫びだった。私、割りと手段は選ばないタイプなの。と云い、にこりと何事もなかったかのように浮かべられる平時の笑顔は非常に怖い。

虫一匹殺さなさそうな見目を裏切る苛烈さに敦も卒倒するかと思った。だが其れよりもまず敦は自身が身につけていた領帯(ネクタイ)を取り、彼女の手に巻きつけた。瓶で切ったのか、血が滲んでいたからだ。



「――ありがとう、敦くん。」



輝夜は驚くように目を瞬かせた後、不器用にも手に領帯を巻きつけ止血する敦の頭を切っていない手で撫でた。敦はなんだか妙に恥ずかしくて、同時に初めて褒められた事が嬉しかったような気もした。那代さんってなんだかお姉さんみたいですよね、と云えば、もうお姉さんなんて年でもないけどね、と優しく笑ってくれた。

何となくそれがおかしくて、敦も釣られるように笑えばパシャリ、という音がする。写真機の作動した音だ。したり顔で写真機を構えた輝夜は、呆然とする敦を置いてくるりと方向転換すると帰り道を歩んでいく。



「さて、証拠も取れたし帰りましょうか」
「えっ証拠って僕の事ですか!? なんで今撮って……」
「敦くんとの初仕事記念、かしら」
「っていうかそれ、社の備品だから怒られるんじゃ」
「其れもそっか。後で国木田君辺りに怒られちゃうかも」



そう云いながらも、先刻撮った写真を消す素振りは見せない。輝夜は国木田が輝夜を怒れない人物であると知っていたし、折角撮れた無邪気な笑顔を消してしまうのは勿体無いとも思っている。敦は隣を歩く輝夜を見ながら云った。



「え、消さないんですか?」



そして、輝夜も敦を見ながら云った。



「うん。消してあげない」



何処か既視感の覚える悪戯っ子のような笑顔を浮かべ、写真機を鞄に戻しながら。





写された長方形

(おい敦。此れはお前か?)
(え? ……あっ。いやそれは!)
(国木田君、私が撮ったの。それ、結構良い写真でしょ)
(わぁ本当だ。輝夜、写真家の才能あるんじゃない?)
(……敦。……焼き増しでもするか?)
(――結構です!!)




 

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