マジすか0

□序幕「始まりはいつだって」
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チャラチャラチャッチャチャッチャラー

チャララランチャッチャチャッチャッチャチャランチャチャー

頭の中で間奏が鳴り響く。

いや、頭の中じゃねーけど。多分この近くの校舎だろうと、推測するだけだ。

楽器の音に区別はつかないが、トロンボーンの音が混じっている気がする。ブラスバンドかな?

この学校でも吹奏楽部がてっぺんなんだろうか。

正確なものなど何も無い。

知らないものだらけで、周りの全てが初めての景色で。

これから自分で一つ一つ不確かなものを消して、自分のものにするんだ。

「下手くそ」

吐き出すように呟いた。

演奏はまるで今の俺みたいに不安定なものだった。

初々しいし、未熟だし、しくじる事を恐れているのか音は弱弱しい。

どこで鳴っているのか、誰が演奏してるのか。

俺には分からない。

分かるのは聴いたことの無い曲だということ。

そして、

根性だけはあって、途切れそうになりながらも演奏が続いているということだけ。

本当、俺によく似ている音色だな。

弱っちいくせにしつこい。

それが俺だ。だからこそこの曲は、俺のヤンキーソウルを擽る。

なんか知らねーけど燃えてきたぜ。

「俺が来たぞ」

格好つけて低い声で言ってみる。俺の声に反応して間奏が一瞬止まったような気がした。

まるで俺の台詞を待っていたかのように。

透かさずすぅーっと息を吸って、

「福岡あああああああ―――!!!」

発射!!!

「――ふぅ」

恥ずかしくなってきたー…

てか、演奏止まってるし。

まさか俺のせいか?ちょ、誰か聞いてたの?マジで恥ずいんだけど!

「いやいや、恥ずかしがることは無い!ヲタ、お前は決意を新たにしてここに立っているんだぞ。んなこと一々気にすんじゃねぇ!しっかりしろぉ!」

あー、やべぇ。

今の俺は一人。

ウナギもバンジーもアキチャもムクチもいねぇ。

何言ったって返事は返ってこないのに、寂しいからついつい何かを喋っちゃう。

ここ数日で独り言が癖になってしまってる。ただの痛い奴だこれ。

「…クッソ」

風に靡く黒いジャージには未だに慣れなくて、視線の先に映る度目を疑う。

黒と黄色が混ざり合ったジャージは貧乏で服に興味の無い俺が見ても結構高いだろうことは一目で分かる。

結構どころじゃないだろうけどな。

ヤンキーが着るにはオシャンティーすぎやろ。どうにも俺には似合わねぇ。

喧嘩ですぐ破れるだろうし、こんな高いもんくれなくったって…。

『いいから持って行け』

…まぁいっか。これに関してはこっちに来る前から散々悩んでて、結局自分はこの服を着ることを選んだのだ。

『行くのか』

ああ、行くさ。

「行くよ。俺は」

幻聴でもなんでもない。数日前からずっと自分の耳に残っていた声にやっと答えることができた。

『俺達は仲間だろ!俺達を捨てて…行っちゃうのか?!お前はそれでいいのかよ!ヲタ!』

いいもくそもあるかよ。これしか道はなかったんだ。

自業自得なんだよ。

俺だって、本当はあの緑のジャージを脱ぎたくなかった。でも、それがお前らに申し訳ないことだって、気付いたんだ。

今の俺にはあのジャージを着る資格など無い。

「だから今は、これで許してくれ」

黒いジャージを通った右腕に赤い腕章。チームホルモンを象徴するホの字が綺麗に刻まれている。離れていても、俺は責任を負うことを諦めない。俺の拳にお前らの誇りとヤンキーソウルを乗せてぶつける。そしたら俺は、絶対に負けないから。

『お前がどこに居ようが、俺達のリーダーはお前だけだ』

坂道を一気に下りて学校の正門に降り立つ。自然に下校中の生徒を立ち塞がる形となって、俺は一瞬で注目を浴びた。

心臓の音がうるさい。さっきの演奏よりみっともない演奏があったなんてな。情けねー。

この不安も、震えも。誰にも感じさせやしない。

俯いていた顔を上げて、全てをぶっ壊す勢いで睨みつける。思いっきり見栄だ。

だが効果は抜群。

瞬く間に周りの人はいなくなって、遠くでこっちを探っているような視線だけを感じる。

殴り合いの喧嘩をしたこと無い一般人には、充分すぎるほどの脅威だったはずだ。

だてにマジ女通ってたわけじゃねーんだぞ。

『必ず…戻って来いよ!』

一直線で帰るには一直線の道で進むしかない。

さぁ、こっからが勝負だ。

誰にも邪魔はさせない。あいつらが待ってるんだ。

「――てっぺんまでの道を通す」

一気にな。

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