長編
□異形頭の世界にトリップ
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映画の開演ブザーが鳴り響く。
自分以外に観客はいない。
それでも優子は真ん中の席ではなく、後ろから数えて3番目の一番端っこの席に
座っていた。
此処が優子の特等席だ。
この映画館はかなり古いようで背もたれに体を預けると少しきしんだ音をだす。
・・・自分が重いとかじゃなくて。
少し思い悩んでいるうちに映画が始まる。
映画も同様、白黒の古い映画で優子の気分がよくなる。
昔、祖父とよく一緒に古い映画をみていたのだ。
映画が大好きな祖父はよく幼い優子を近くの映画館に連れていってくれていた。
優子も映画が大好きだったので喜んで祖父に手をひかれながらついていった。
しかし今はどうだろうか。中学に入ってもよく祖父になついていたが、
優子が卒業する間近の所で他界してしまった。
祖父がいなくなってから優子は映画をみなくなった。
忙しいという理由を付けて心配した親の誘いをつっぱねたこともあったが
本当は祖父のいない虚無感を味わいたくなかったからだ。
そんなこんなでとうとう大学生になってしまい、就職する前に見納めしようと思い
適当な映画館へ入ったのだ。
・・・しかしどうしてこんなに懐かしい気がするんだろう。
あのレトロな雰囲気の映画館はもう壊されてしまったはずなのに。
古い映画特有のカウントダウンが始まる。
ぼんやりと映画のノイズを目でおっていると不意に眠気が優子をおそった。
嗚呼、寝ては駄目だ。映画を見に来たのに。
頭の隅でそんなことを思いながらも段々視界がぼやけていく。
3、 2、 1、
意識が落ちる前に視界の端に黒いスーツがうつった気がした。