空席の隣人

□人が人を必要とするのは必然である
1ページ/15ページ

「相談、聞いてもらっていい? いつもならスクアーロにするんだけど、ちょっと都合が悪くて」

 彼女の問いに、彼は肯定の言葉しか返すことが出来なかった。通常ならば彼は彼女から相談を受けるに当たり、必ずするべき話があった。相談料は高く、内容によって上下するなどという彼にとって何よりも大切な金についての話が。だが、もう後がないような、切羽詰まってしまったような彼女らしからぬ声を電話越しに聞いてしまった彼は少し、気にかかってしまったのだ。広く薄暗い部屋の中に一人で篭り、いつどんなことをしでかすかわからない彼女のことが。











「ゔおぉい、マーモンの奴を見てねぇかぁ?」

 スクアーロは今、とにかく困り果てていた。先日の人事募集についての会議の話をしようとマーモンを捜していたのだが、どこをどう捜しても見つからない。自室はもちろんのこと、幹部専用の談話室、食堂、書庫、倉庫など、マーモンがよく訪れる場所の隅々まで捜した。彼の携帯端末に入電したが、電源を切っているのかバッテリーが切れてしまっているのかまったく繋がらない。ヴァリアー城内部全てのスピーカーを通して呼びかけても、彼はスクアーロの元に現れなかった。外出の可能性も考え、スクアーロは今日の担当の門番にも訊いたが彼のそのアテは外れた。彼らもマーモンの姿を見てはいなかったのである。つまりスクアーロは、マーモンの居場所についての良い情報を探し始めてから一切得られていなかったのだ。

「見てねーな。てか、さっきのうるせー放送で来なかったのかよ。ま、マーモンのことだから、部屋で手元にある札か預金通帳を集中して見てて放送なんて耳に入んなかった、とかあり得そうじゃね」

「いや、それはねぇな。部屋で捜したが、ヤツはいなかった。ベッドと壁の間に挟まってたわけでもねぇしなぁ」

 ベルフェゴールの問いかけに、スクアーロは首を横に振った。彼は、一応仲の良いベルフェゴールならばマーモンの居場所がわかると思った。しかし、ベルフェゴールでも彼の居場所はわからないらしい。誰をアテにして訊ねればマーモンの居場所についての良い情報が得られるのかと、スクアーロはまた首をひねるのだった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ