空席の隣人

□新しい友人とはゲームを通じて仲良くなれます
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「う、嘘だろ……? 年上として、年下に意地張ってるだけじゃ、ねーの?」

 メルディの働いているという主張を疑いながらも、挑発を繰り返すサラクエル。彼が信じたくないのも当然だ。自分と同じようにゲームばかりやっている同じ穴の狢とばかり思っていたのだから。彼は今、裏切られたような気分でいっぱいいっぱいだった。

「嘘じゃない。名前は言えないけど、とある部隊で働いてる」

「マ、マジかよ……。…………ん? 部隊? お前、軍隊かなんかに入ってるわけ?」

「あっ……! ……まあ、そんな感じ。諜報員、みたいな」

「うっわ、アルファって話し方の割に意外とアグレッシブじゃん。マジ意外。意外! で、どんな仕事してんの? 気になるわー」

「……あー、えと、言ったら殺されるから無理」

「うわ、マジかよ。かなりヤバイとこじゃん。……本当にお前で大丈夫?」

「一応、役には立ってるつもり」

 自信満々だなぁー、お前、というサラクエルの言葉をバックに、メルディは親指の背を噛んで考える。詳しい内部の情報を詳しく説明したわけではないため大丈夫、おそらくセーフだろうと。万が一サラクエルがこの部隊に心当たりがあり、探りを入れてこようともこちら側でシャットアウト出来る。そのために、私はここいる。そうメルディは意気揚々と豪語する。

 なぜ体力のなく、たいした学を持たない非力な女が暗殺部隊に入れたのか。この分野についての知識と経験と実力があったからだ。と自問自答を繰り返すも、メルディはやはり不安になる。ああ、ついムキになって職場のことを口走ってしまった。このことがスクアーロなどにばれたら、殺されずともきっとまた何ヶ月間かただ働きにさせられる。もしかしたら、たくさんの思い出の詰まった大切なこのパソコンを没収されるかもしれない。ああ、どうしようどうしよう。メルディは弱気な人間だった。











「今日話してて思ったけど、なんかサラクエルさんって、年下のちょっと迷惑な同僚の面影を感じさせるね」

 時間が不安を忘れさせてくれた頃、メルディはサラクエルと話していたときにふと思ったことを言った。するとサラクエルは心外だと言うように、少し凄んだ声を出す。

「ンなわけねーじゃん! なんでお前の同僚のちょっと迷惑な庶民ごときにオレの面影なんてあンだよ。気のせいじゃねーの。つーか、オレが迷惑だって言いたいわけ!?」

 サラクエルの掴みかかるような勢いーーただし彼は国境を越えた遠くの場所にいるーーに、メルディは先ほどの発言を撤回する。彼女は、ある人に似ているという趣旨の話をしただけで、サラクエルがそんなに怒るとは思わなかった。

「じゃあ、気のせい。気を悪くしたのなら謝る。ごめんね」

 わかればいいんだと言うように鼻を鳴らすような音が、パソコンのスピーカー越しにメルディに聞こえた。おそらくも何も、それはサラクエルのものだったのだろうが。

「ーー様! いかがなさいましたか!? まさか、またこのーーーーーに隠れてクレジットカードを使い込んでいるのではっ!?」

「うわっ、ヤッベっ! じゃあなアルファ! また今度も一緒にや」

 所々途切れた、確実にサラクエルではない声が遠くの方から聞こえたあと、彼はかなり焦っていたのか、話している途中でボイスチャット終了ボタンを押してしまった。なんともサラクエルは微笑ましいおっちょこちょいさんである。彼の最後の言葉はきっと、また今度一緒にやろうというところだろう。「喜んで」と、メルディはサラクエルに伝わるはずもない言葉を、頬を緩めて愛用するヘッドマイクに呟く。

 所々途切れるような声は彼が言っていた執事、正しくは保護者の声に違いない。しかし保護者は不可解にも、彼を様付けで呼んでいた。もしかしたら本当に、サラクエルは亡命中の某国連加盟国の超メジャーな国の正統王子で、保護者が執事なのかとメルディは思いを馳せた直後、そんなわけはない、あってはいけないと首を振った。自分のことを王子と呼ぶ身近な人間は、一人いればもう手一杯。そんなのが二人もいて居てたまるか、という思いだった。

「やっぱ、似てるような気が……。やだなぁ、もしも彼の話が事実だったら」

 暴飲暴食をしたわけでもないのに、彼女は自分の胃が痛んだ気がした。胃薬はなかった。
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